第10話

「ごめんね……。肩、辛いよね……」


 静かな部屋に、元気のない声が響いた。

 黒川さんは、いつも明るいから違和感しかないが……。

 そういう人だからこそ、常に周囲へ気を配っていて疲れるのかもしれない。


 はあ……。

 一瞬、勘違いしそうになったけど、これはあれだよな。

 やっぱり友達として頼られてるんだよな?

 

「大丈夫か?」


 俺の声に反応して、黒川さんはピクっと肩を震わせた。


「うーん。ちょっと……大丈夫じゃないかも……」

「嫌な事とかあったのか?」

「そうだね。そんな感じ」


 そのまま、黙りこむ黒川さん。

 視線が合わない分、何を考えているのか解り辛いが、精神的に参っている事だけは伝わってくる。

 

 はぁ……。

 仕方ない……。

 そそくさと紅茶のカップとソーサーをテーブルへ置いて、俺は黒川さんへ手を伸ばした。


 それからなるべく優しく頭を撫でる。


 よしよーし。


 あくまで花さんにするような感じで。


「あはは……。もう……あたし犬じゃないよ?」


 でも、まー。

 効果あったやん?

 少し、笑った。


 俺がそんな風に言うと「そうだね……」と柔らかい声が聞こえてきた。


「誰かに」

「えっ?」

「誰かに悩み事を聞いて貰うだけで、不思議と自分の心が整理されるらしい……」

「ほんとに?」

「コア……じゃなかった。前に花茎さんがそんなことを話してた」


 そういえば、――義弟のことで相談に乗って貰えてよかった。

 初めて、コアラ女に感謝した。


「へぇ〜」


 んん??

 突然――不機嫌になる黒川さん。

 なしてや?


「ほんとに羽美と仲良いよね……」


 黒川さんはボソりと呟くと、なぜか真夏なのに部屋中をブリザードが吹き荒れ始めた。

 そして、俺の膝ですやすや寝ていたはずの花さんが凍死しそうになったのか、プルプルと立ち上がると、少しだけ開いていた扉を器用に開けて――俺の方を薄目で見つめてきた。


「くっそ空気読めていないわよ、あなた」とでも言うように。


 えっ……花さん……。

 この状況下に俺だけ置いていくんすか?


 嘘、でしょ?


 二人きりは不味いっすよ。


 それに、この後のフォローをどうすればいいのか、教えてくださいよぉぉぉぉ。


 寧ろ、助けてくださいよぉぉぉぉ。


 そんな俺の心の声を無視して、花さんはおしりをふりふーりしながら部屋を出て行ったのだった。




 ◇



 割とすぐ終わるお話なので、最後までお付き合いいただけると幸いです。

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