第8話
[黒川礼奈視点]
それから、なんとなく柏田君のバイト終わりを待っていると、瀬奈から短いラインが入って来る。
『土曜日、秋也達と遊ばない?』
ただ、ただ……。
プレッシャーを感じてしまうのは、やっぱり過去のトラウマがあるからかな?
中学時代、グループの女子達から散々陰口を叩かれて、人間不信に陥ってしまったことがあった。
みんな、笑顔の裏に本心が隠れてて、それが怖くて怖くて仕方がなった。
今なら周囲と自分が同じだと安心する、そんな心理状態をキープしたいだけの行動だと思えるけど。
……あの当時は思えなかったなぁ。
『おつー。土曜は羽美と約束があって行けない〜』
『はあ?礼奈が来ないとつまんないじゃん。土曜は夜から集まるし、花茎さんも誘って途中から合流しなよ?したら、秋也や花茎さんが好きな剣二も喜ぶじゃん?』
はあ。
疲れる。
『残念だけど、夜まで羽美と予定あるから』
『ちょっとだけならいけるよね?いいから一時間だけでも花茎さんを説得して顔出しなよ。それで今回は許してあげるから』
話が全く通じないんだけど……。
ちょっと、でも無理だから。
どうしよ……?
瀬奈へ返信出来ないままフリーズしてしまう。
とりあえず、こっちにも返しておかないと……。
『返事が遅くなってごめんね。瀬奈には連絡したけど、土曜日は用事があって行けないです。あと具合が悪いとかじゃないから大丈夫だよ』
多分、天童君が瀬奈に連絡したはずだから、話がややこしくなる前に天童君にも返信する。
たった数分で、ぐったりしてしまう。
でも、いつまで……。
あたしはこんなに疲れることをしないといけないのだろう?
まだ、あのクラスで二学期も三学期も過ごさないといけないと思うとゾッとする。
そんな風に憂鬱な気分に陥っていると、柏田君のバイトが終わる。
柏田君に手を振ると、なんだが、あたしがこんなやり取りで疲れているのが申し訳なくなるほど、フラフラなっていて――。
思わず手招きして、今日は羽美がいないのに、思わず「一緒に帰らない?」と誘ってしまった。
それから、初めて二人だけで帰ったけど――柏田君はあまり話す方ではなくて、でも、そんなことはどーでもよくなるほど、空気感が柔らかくて、天童君達とのこともあったから思わず……ホッとした。
だから、かもしれない。
「ふ、深い意味はないからね?もし……もしね、柏田君に時間があるなら、お茶でもどうかなーって思っただけだから……」
と、気づいたら無意識のうちに、部屋へ誘ってしまっていた。
もう少しだけ一緒にいたくて……。
だけど、柏田君は考えこむように思案していた。
でも、すぐにパァァァァァと顔を輝やかせると、
「時間、無限にあるから」
そんな風に嬉しそうに笑うから……。
あの時、勘違いしそうになった。
もしかしたら、あたしのこと……って。
そんなあたしにだけ都合のいい……勘違いをしそうになったんだよ……。
◇◇◇
もう一話、更新させていただきました。
皆様のお暇潰しになれば幸いです。
いつも応援や評価をいただきありがとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます