第12話 2人旅




 翌朝、眠った時間が遅すぎてあまり眠れず欠伸をしながらも、相談して決まった行き先に向けて出発する。


「いざ行かん、迷宮都市へ!」

「ワー、パチパチ」


 迷宮都市でお金を貯めてアグフィーリとの国境の街、マイックへ行く予定となった私たちは森にある冒険者がよく使う細い獣道のような道を使って迷宮都市を目指す。


 ケイシーによれば、迷宮都市までは途中の村等を挟み、徒歩で数十日の道のりだ。乗り合い馬車は今回使用しない。懐事情と相談した結果である。


「ねぇ、迷宮都市にはどんな迷宮があるの?」


 迷宮都市に行くのを決めた理由はその名の通り迷宮ダンジョンがあるからだ。だが、昨日どんなダンジョンがあるか訊きそびれてしまったので、また忘れる前に質問する。


「えっと、蟲系統の魔物が出てくる洞窟型の蟲迷宮と、死霊系統の魔物が出てくる墓地型の死霊迷宮だよ」

「蟲と死霊、どっちの方が危険なのかな?」

「えっとね。め、迷宮にもランクがあって、下位、中位、上位と例外の極位が存在していて、蟲迷宮は下位で死霊迷宮は中位だよ。だから死霊迷宮の方が危険になるかな」

「へぇ、教えてくれてありがとう、ケイシー」

「えっ!?い、いや、エ、エヘ、エヘへそうかなぁ。フフフッ、私だって魔物の討伐の時はエル助けてもらっているし、フヘヘッ」


 当然のように知っていたケイシーを褒めるとケイシーは三つ編みをブンブンと振り回しながら喜んでいた。




 細いとはいえ踏み固められ、安定した道と魔物が現れない事もあってケイシーと喋りながら歩く。


「そ、そういえば、迷宮都市は武器屋も沢山あるから、良い武器が見つかるといいね!」

「うん。買うなら弓とナイフかな。ケイシーは?」

「わたしもあ、新しい弓、がいいなぁ」

「どんな弓を買いたいの?」


 ケイシーが溢した言葉に自分の弓を選ぶ時の参考になるかもしれないと何の気なしに質問する。


「えっとねぇ……。今わたしが使っている弓は標準的なサイズの弓なんだ。ロングボウになると飛距離が伸びる代わりに力が必要になって疲れやすくなっちゃうでしょ?だから買うなら今と同じかショートボウにするべきだと考えてるの。ああでも1つの素材で作られた単弓か動物の革とかを使った複合弓か…そっちも考えないといけないよね。安さと手入れのしやすさなら単弓だけど強度とか飛距離を考えると複合弓になる…あとあと!弓に付けるオプションも……(中略)

 …だからわたしは小さめの単弓にしようかな」

「そ、そっか…」


 予想以上に熱の籠った語りに気圧されながらも何とか返事を返した。ケイシーがこんなに弓が好きだなんて、次質問する時は心構えをしてからにしよう。と決める。


 ケイシーは沢山弓の話をして楽しみになったのかルンルンとスキップをしている。その後ろ姿を見ていると、なんだかスキップがしたくなってきたので私もケイシーとスキップする。


「迷宮都市、楽しみだね!」

「うん!凄く楽しみ!」


 好きな食べ物の話から迷宮都市に着いたらどうするかまで、話しているだけなのに楽しい。1人ではなく、2人になるだけでこんなにワクワクするなんて、冒険者がパーティーを組む理由が分かった気がする。


「ふふーん♪ふんふー……ふぎゃ!?」

「ケイシー!?大丈夫?」


 旅って楽しいんだなぁ、と思っていた私だったが私よりも先に進んでいたケイシーが石に躓いて転んだのを見て慌てて駆け寄る。


「痛っ!エル~!治してー!」

「はいはい。わかったから、これで顔の土を拭いて」

「うん…」


 幸いケイシーの怪我はかすり傷で大したことはなく、私がヒールをして直る程度のものだった。


 危ないのでケイシーが躓いた石を土魔法で掘り起こし森に投げて、そのまま森に入って薬草採取を始めた。


「あっ!チョーツハーブ!」

「本当だ。採取していこう」

「そうだね…あっ!あそこにも薬草が!」

「待ってケイシー!」


 チョーツハーブは単体では効果は無いのだが、回復ポーション、魔力回復ポーションの材料と合わせて使うと効果が長く安定させる効果がある。チョーツハーブを使わないと3日で効果が切れてしまうが、チョーツハーブを使うと9日くらい効果が延びる。

 無くてもポーションは作れるが、冒険者などポーションを買えない場所に長い期間行く者達にとっては凄く助かるハーブだ。育てるのが難しくそこそこ高値で売れる。


「えっ?ふぎゃ!」


 そのチョーツハーブ以外にも色々な薬草が生えていて、早く採ろうと走ったケイシーは木の根に躓いて転んだ。


「ああ…大丈夫?」

「あ、ありがとうエル」


 ケイシーの手を引いて立ち上がらせ、服に着いた土を払って採取を再開した。




「グルルッ!」


 森の中を、薬草やハーブ、その他を採取しながら進んでいたが、突然目の前に現れたウルフ達に囲まれてしまった。


「4体…。エル、ウルフの中には1体だけ隠れて不意討ちを狙ったりする戦法をとるモノもいるから気をつけて!」

「うん!わかった」


 今、見えている4体以外にいるかもしれないと意識して広く見渡す。


「グルルァ!!」


 ウルフが唸り声を上げ、襲いかかる。避けてすぐにナイフを刺そうとするが、ウルフは1度攻撃したら一旦下がってしまった。数敵有利で視界の外からも攻撃をされるので、思ったように攻撃を当てられない。


「グルルッ!」


「…どうしよう。まだ1体も倒せてない」


 私もケイシーも、ウルフの攻撃は当たっていないが、それはウルフも同じ事。そして不利なのは私たちだ。ウルフもそれがわかっているのか、心なしが笑みを浮かべているように見える。

 そんなジリジリと追い詰められる展開は唐突に終わった。


「だ、大丈夫だよエル!きっと倒せ・・・キャ!」


 ケイシーが矢を射とうと狙いを定めて後ろに下がった時に木の根っこで転び、手を放した。


「ギャイン!?」


 放れた矢は、木の上に隠れて不意討ちを狙っていたウルフの脳天にミラクルヒットした。


「えっ!木の上からウルフが落ちてきた!」

「なんで!?あっ、いや、ね、狙いどおりだね!」


 2人して驚いていたが、私たちよりも驚いていたのがウルフだった。


「グルルッ!?」


 不意討ち要員のウルフが殺られた事であからさまに混乱し、連携が乱れる。


 混乱している間に、と残りのウルフ4体を倒し、ケイシーの倒した1体と合わせて5体のウルフに勝利した。



 倒したウルフ5体の解体を終え、袋にしまっていく。


「近くの村には明日着くだろうからそこでウルフの皮と牙を売ろうか」

「そうだねー。ただね、エル。わ、わたし達には重大な問題が残されているんだよ」

「それって…?」


 どれくらいの値段になるだろうと考えていた私は、深刻そうな顔をしたケイシーの言葉に何かあったのかと緊張して先の言葉を待つ。


「ウルフの血の匂いがついているから落とさなければいけないって事だよ!」

「・・・そうなんだ」

「『・・・そうなんだ』って、は、反応薄い!大切な事なんだよ!血生臭いまま移動なんてし、したくないじゃん!」

「それはそうだけど。わざわざそんなに深刻な表情作って言わなくてもよかったじゃん」

「うっ。そ、そんなわけだから、水辺を探そう!」


 いや、ケイシーの言い分はわかる。確かに血の匂いは気になっていた。だが、普通に言えば良かったのに、大層な問題を見つけた。って思わせ振りなケイシーの表情の所為で反応が鈍くなってしまっただけだ。


「あっちに川があるみたい」


 まあ兎も角、水辺を探して川の流れの音が聞こえた方に進み、川を見つけた。


「キ、キレイな川!…あっ!魚が跳ねた!」


 所々岩があって、水浴びにはちょうど良さそうな川を見ると、魚が泳いでいた。影しか見えないが、様々な魚がいるようだ。


 その光景を見ていると魚が食べたくなってくる。浅瀬は大丈夫だが、そこそこデカい肉食魚もいるようだ。


「…ねぇ、エル!」

「なぁに?」

「お魚、食べたくない?」


 やはり川を泳ぐ魚を見せらると、魚が食べたくなるらしい。ケイシーも魚を食べたい気分になってしまったようだ。


「うん、確かに。こんなに泳いでいるのを見ちゃうとね。食欲が刺激されるね」


 食べたい気分になったら魚が寄って来る訳ではない。食べたい、と思うのならば釣らなくては。

 という訳で水浴びを素早く終わらせ、森の中にある物で釣竿を作ると釣りを開始した。


 ちなみに作り方は、よくしなるズレーオの枝と、良い感じの蔦、そして石の下にいる虫を材料に使った。村で散々作った作り方だったのですぐに作れた。


 ケイシーと離れ過ぎないように気をつけつつ、見つけた良さげなポイントに向かって竿を振り獲物が掛かるまで待つ。


「釣れるかな・・・」


 しばらく経って、何回か食いついていないか確認をしたが、何もなく、釣れない時間が流れる。ここで釣れるかどうかで今日の夜ご飯が、釣りたて新鮮な魚になるのか、何時ものウサギ肉になるのかが決まるのだ。是非とも釣り上げたい。


「ん?あっ、食いついてる!」


 だが、中々釣れず魚の姿だけを見て、魚が食べたい気分になりながら、魚は釣れないまま終わってしまうのか。そう思い始めた時、何かが食いついた感触が竿から伝わってきた。


「やったー!釣れた!」

「凄い!い、いいなぁ、わたしも釣りたい!」


 釣れたのはこの辺に沢山いて、ルメルパ村近くの川でも釣れる、クロルマスだった。


「むぅ、絶対に1匹は釣りたい」


 先に釣った私に対抗心を燃やし、釣ろうと意気込んだケイシーだったが、この後もまったく釣れず、私が2匹新たに釣って合計3匹になって日も暮れたので終わりになった。


「悔しい、どうしてエルばっかりが釣れるの、あれなの?私には釣られたくないと、私みたいな奴の竿にはかからないと。そういう事なの?」

「あ、ケイシー。魚、焼けたよ、はい。食べよ!」

「ありがとう…。あちっ、……美味しい」

「良かった」


 1匹も釣れず、落ち込むケイシーに焼けた魚を上げて気を反らす。焼きたての熱さに苦戦しながらも、少し口角を上げて食べる姿を見て私も焼けた魚にかぶりついた。


「……アチッ!……美味しい」


 夜ご飯を食べ終えて、明日に備えて眠るだけとなったがここは魔物のいる森の中。


「先にエルが眠って、その間は私が見張り。しばらくしたらエルが見張りをして私が眠る。結界の魔術が込められた魔道具とかなら自分たちの周りに展開して身を守れるけど、それがあっても1人は必ず起きて周囲を見張るの。結界が壊されるほどの魔物の接近や気配を消せる存在に早く気がつけるように」


 そんな話をして私が先に眠る事になり、しばらくしたら交代して私が警戒をする。なのでその時間が来るまでゆっくりと眠ろう。


「おやすみ、エル」

「うん。おやすみ、ケイシー」


 ローブにくるまり、目を閉じる。ケイシーはパチパチとなる焚き火の前に座って周囲の警戒をしているのだろう。


 焚き火と木々の音を子守唄に私は眠りについた。




「・・・・・んん。ケイシー?」


 誰かが近づいてきた気配がして目を覚ます。


「あ、起こしてごめんなさい。エル、交代の時間だよ」

「ふぁ。大丈夫だよ。ケイシーにずっと警戒してもらう訳にはいかないし……」


 目を開けると、目の前にケイシーがいた。時間になったので私を起こしにきたようだ。

 申し訳なさそうな顔を見るに、私が目を覚まさなければ起こす事は出来なかったような気がする。


「おやすみ、ケイシー」

「うん!おやすみ、エル」


 ケイシーと交代して焚き火の前に座る。


 起きたばかりでまだ眠いので、眠気覚ましに干し肉でも齧ろうかと荷物から取り出して、鍋に水を入れて沸かす。


 沸いたお湯を飲み、干し肉を齧りながら夜空を見上げた。


 今日は寂しくなかった。

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