第3話 「お見合い終わって続報」


 「……終わった」


 どうやって帰ったのかはあまり覚えていない。

 というか、なかなかのフルコースの料理とかも出てきた気がするが、味がしなかった。

 

 あーいう感じね。…………あーね。

 なるほどね?


 え?どうするの?これ。

 

 「……あそこまで最初から拒絶されるもんか?結構俺あそこまでがっつり「興味ない!」って言われたことないんだけど……」


 初手否定は流石に傷つく。

 社会人とかならよくあるのかもしれないけど、生憎と俺は前世でも高校生だったからなぁ。

 

 「もううじうじしないで、元気出してください!あ、……おっぱいでも揉みます?」


 花咲里さんがその豊かな胸を強調するように、前に乗り出してくる。


 「いやそこまでは流石に……だから顔を谷間にうずめたい」


 「そっちの方が要求のレベル高くなってませんか?……まぁいいですけど、おいでください?」


 さぁと、胸を広げてくれる。

 

 「それでは」

 

 ばって抱きつき、躊躇いなくその胸の中へ。

 

 最初の頃こそ、ためらいもあったが、この人の距離感の詰め方のおかしさにどうでもよくなった。

 

 いや、違うか。

 受け入れるようになったのはちょうど……あの時。


 「……どうですか?」

 

 いつもの花咲凛さんのバニラのような匂いが鼻孔を満たしていく。

 胸の柔らかさも弾力があって、気持ちいい。


 あー落ち着く。


 「よきよき」


 「こういうことして喜んでいる人、今時キョウ様くらいじゃないですか?」


 ちらっと顔を見れば、呆れたように、それでいてしょうがないなぁという感じで仄かにほほ笑んでいる花咲凛さん。

 

 「あ、でも揉んじゃだめですよ?もまれると私もスイッチ入っちゃうかもなので」


 

 それはなおのこと揉みたい……がそれをやったら後々怒られるのは経験済み。


 数分そのままでいさせてもらって、ようやくざわついていた心も落ち着いた。

 やっぱおっぱいは精神安定剤だよなぁ……。

 

 花咲凛さんから離れようとするが、逆に花咲凛さんの俺を抱きしめる手がなかなか離れない。


 「花咲凛さん?」


 「……ああ、すいません、つい」


 ついってなんだついって。

 まぁ俺も役得だからいいんだけどさ。


 「落ち着きました?」

 

 「はい、だいぶ」


 「あふれ出る私の母性のおかげですかね?」


 「年上の母性にやられましたねぇ」


 「え、ばばあって言いましたか?」


 「いえお姉さんって言いましたよ?」


 「ふむ、ならよしです!」


 ふぅ、いつも通りの頭の悪そうな会話。


 「……それでどうするのですか?」


 諦める、そんな選択肢を取るとは微塵も考えてないんだな。

 もちろんそうなんだけど、俺が諦めたらりおねぇを助けられない。

 ただあまりにも予想と違い面食らっただけ。

 いや喰らいすぎただけ。

 

 

 「まずは、3人とある程度まで話せるくらいにはならないといけないな、っては思ってるよ」


 「ふむふむ」


 まずは相手の人となりを知らないといけない。

 それに……


 「相手も最初でこそああいったが、完全に拒否しきっている訳じゃないのも確かだから、さ」


 「と、言いますと?」


 「たぶんそれぞれの問題の本質は各々あるだろうけれど、俺自身が嫌いというよりは男、っていうジャンルについて多かれ少なかれ、嫌悪感を抱いている感じではあったかな」


 隠してる人もいたけど。


 「まぁ過去とかを見てみるとそう言う感じな方は、宝生さんですかね?」


 「そうだね、宝生さんは正にそんな感じだ」

 

 「他の人は違うんですか?」


 「うーん、なんともいえないかな、もう少し話してみないと何ともしようがないよね。でも今日このお見合いに来た、っていうことは絶対に嫌、っていう訳でもないと思うから。まぁ時間の許す限り、ゆっくりと心をほどいていかないとだよね」


 愛の伴わない結婚程、形式ばったものほど滑稽なものはないのだから。

 だってそれじゃまるで俺の嫌いなだから。

 まぁ3人と、いや4人の女と結婚しようとしてる俺の方こそ矛盾してるか……。


 

 はは結局……俺も同類か。

 

 

 そんなこと今更だよな。

 俺はこの道を行くと決めたんだから。 

 

 「……軽く夜食でも食べますか?」


 「そうだね、もらおうか――」

 

 ーーピロン。

 携帯の着信音。

 

 「……花咲凛さんなったよ~」


 「ありがとうございます。でもこんな時間に連絡してくるなんて一体誰が…………え」


 不快感をあらわにしていた花咲凛さんの顔が、驚きで固まる。


 「どうしたの?」


 「……」


 「花咲凛さん?」


 「あ、……ああっすみません」


 「どうかしたの?どんなメールきたの?」


 たぶん花咲凛さんにとって、良くない連絡だろう。


 「……キョウ様」


 俺の眼をまっすぐ見てくる。

 

 「うん?」


 まるで告白のような真剣な眼差しに俺もどぎまぎする。

  

 「キョウ様、お疲れ様です」


 頭を下げると同時に、携帯の画面を見せてくる。

 

 「……え?どゆこと?」


 「いいから見てみて!」


 「う、うん?」


 訳も分からずとりあえず画面を見る。

 そこにはひとつのメッセージ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 NAZ機関: 本日のお見合いの成功を祝して、

       4人には一緒の家に住んでもらうこととなります。

       引っ越し日は3日後です。

       

       以上

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「は?」





 

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