第7話 十傑


 西区、探索極棟本拠点。


「――【歌姫】由仁様もご到着をしたことですので、早速、探索会議を始めます」


 司会進行役の探索極棟極長古橋は円卓に腰を下ろすランキング最上位者――【十傑】の由仁を含める――九名を見る。


「てかさぁ、会議って言ってもその話題の人物――“ホロウ”が居ない訳だけど?」


 藍色の浴衣を身につけた男性、十傑の一人、ランキング三位【空疎】蘆屋苳也あしやとうやが顎に手をやりつまらなそうにつぶやく。


「…ホロウ様は、私達と違い忙しいのです」


 蘆屋の言葉に十傑の一人、ランキング四位【歌姫】由仁が嗜める。


「由仁様のおっしゃる通りホロウ様は今も迷える子羊をお救いになさっているのでしょう」


 黒を基調としたシスター服に身を包む桃色の髪に碧眼の美しい女性、十傑の一人、ランキング五位【黒聖女】黒椿くるすシアが同意。


「……」


 そんな黒椿の言葉に由仁は表情を歪める。


「うふふ、そのように膨れてしまうと可愛らしいお貌が台無しですよ?」


「…お言葉、ありがとうございます」


 黒椿の言葉を聞いた由仁は嫌悪感を見せる


 そんな二人は犬猿の中にある。


 理由はいろいろある物、一番は【ホロファン】創始者の由仁に対しそれに対なる【ホロウ教】というその名の通り“ホロウ”を自分達の“神”として崇める宗教を作った代表だから。


「あ、あわわ」


 そんな二人の雰囲気に怯えるローブの女性、十傑の一人、ランキング九位【魔術師】安達小鞠あだちこまりは慌てふためく。


「あはは、二人は仲良いな!」


 険悪な雰囲気をものともせずに大らかに笑い飛ばす作業着の男、十傑の一人、ランキング六位【大将】北條大河ほうじょうたいが


 そんな五人に対して“ホロウ”を除いた残る四人は静観する。


「ま、まぁ、諸君の言いたいことはわかる。ただ、由仁君の言う通りホロウは忙しくてね。連絡も取れない状態なんだ」


「それよりさぁ、ホロウが探索極棟の代表じゃないって風の噂で聞いたんだけど?」


「そ、それは…」


 蘆屋の言葉に古橋は言葉を詰まらせる。


「蘆屋くん。それは事実性が高いと思うよ」


 静観していた一人、白衣を着る男性、十傑の一人、ランキング八位【博士】鍵崎堺かぎさきさかいが眼鏡を上げ古橋の代わりに答える。


「調べがついたのか」


 蘆屋の言葉に自然と視線が集まる。


「まず、全探索極棟をハッキングしたけど《探索者:ホロウ》という情報は皆無。それどころか君の言う通りホロウは探索極棟関係者じゃない」


「じゃあ、“ホロウ”って結局のところなんなんだよ? “謎の声”が俺達を救う為に作り出した幻の『探索者』とでも言いたいのか?」


「いや」


 蘆屋の言葉に鍵崎は首を振る。


「“ホロウ”は確実に存在する。僕達の前に姿を現さないのは彼の素性が原因だろうね」


「…ホロウ君が“一般人”もしくは自分の素性を隠した“探索者”と、言いたいんじゃろ?」


 静観していた一人、落ちついた雰囲気を醸し出す鎧を纏う男性、十傑の一人、ランキング七位【翁】平田玄蔵ひらたげんぞうが核心をつく。


「はい、平田さんのおっしゃる通りです。ただ、は“一般人”の線は薄いと思っています。だよね、透?」


「…あぁ、俺はを見てきた。俺の【鑑定眼】で見れない物など存在しない」


 静観していた一人、忍者装束を身に包む物静かな男性、十傑の一人、ランキング十位【忍者】八咫透やたとおるが語る。


「…まず、一般人――【無印ノーマ】は数が少なくスキルを持たない時点で隠蔽をするなど無理に等しい。それなら【討伐者スレイヤー】の線が濃厚だろう。スキルは千差万別、真の実力を隠して隠蔽する輩など五万といるだろうな」


「…なるほどねぇ。おいおい古橋さんよぉ、俺達に真実を話さないってどういう了見だぁ?」


 それぞれの話を聞いて納得を示した蘆屋は怒気を含めた声を上げた。


「…す、すまなかっ――」


「どうでもいい」


『!』


 蘆屋の言葉に古橋が罪を認め謝る――そんな最中、横槍が入る。それは空間を埋める濃厚な死を呼ぶ殺気と共に。

 その殺気の出所を見ると不機嫌に顔を歪めた藍色の軽装に身を包む銀髪の美少女とも呼べる容姿をした女性、十傑の一人、ランキング二位【神姫しんき神崎冥かんざきめいが自分の背丈よりも大きな太刀を抱きしめて古橋を睨む。


ホロウそんなことより、“ナナシ”は見つかった?」


 神崎の言葉がやけにその室内に通る。



 ∮



 色々と済ませた二人は探索の取り分――残った20万円を依瑠の身嗜みに使う。


「ど、どうかな…似合ってる、かな…?」


 そこには茶髪をミディアムヘアーに変えた綺麗な美人お姉さんが立っていた。


 探索極棟支部の湯船を借り、綺麗な衣服を身につけて美容院で髪を整えた依瑠は見違えた姿で待機室で待っていたナナシに顔を見せる。


「ふむ、マシになったな」


 依瑠の外見を見たナナシの率直な感想。


 いやー、驚いた。容姿は整っている方だとは思っていたけど…余分な髪の毛を切って目を出して身嗜みを変えただけでこうも美人さんになるとは…今の星見さんなら他の男が放っておかないんじゃないかなぁ。


「あ、ありがとう」


 頰を薄く赤らめてハニカム。


 幸薄美人さんだ。


「後は、寝床だけだが…」


「あ、それなんだけど探索支部が便宜を図ってくれて、ちゃんとした住む場所が見つかるまで支部にある空き部屋を使っていいって」


 ヘェ〜、太っ腹じゃん…とは言えないかな。ナナシを【召喚】したことで利益を産めると思ったのだろうね。そうでもなければ初めから星見さんをあんな見窄らしい姿にしない。


「そうか。主人は色々あって疲れただろ。今日は早目に休んだ方がいい」


 野暮なことは口にせず、主人を労る。


「うん、そうするかな。ただ、その前に一緒に食事をとらない?」


「……」


「ほら、ナナシはこの世界の食事食べたことがないと思うから、美味しいよ!」


 いや、メッチャある。


「…任せる」


「任されました!」


 彼女のウキウキとした表情を見て肩を落とす。


 ・

 ・

 ・


「依瑠、向かいに来たぞ」


 依瑠の案内通り道を進むと周りに綺麗どころの女性を侍らせた金髪、長身のチャラ男がナナシ達の進行を阻む。


「ッ、だ、大地君っ…!」


 依瑠はそのヤリチンのような見た目の男を見て青ざめ、その場から動けなくなる。


 なんかきたー。えぇ(困惑)。もしかして星見さんの彼氏とか? 男女の痴情のもつれに僕を巻き込むのとか、マジでNGなんだけど…ハーレムとか◯ねよなぁ。


 ナナシは依瑠の背後で待機。


「聞いたぞ依瑠。お前古代物質アーティファクト級の代物を持つ『使い魔』を持ったんだってな。もしかして、そこの冴えない見た目のそいつが?」


 チャラ男は不躾にナナシを見ると嘲笑う。


 カッチーン。この男、ブチ○すわ。てか、お面をつけてるのにどうして冴えないってわかるんだよ。オーラか? オーラなのか???


「ま、いいや。どうせ『使い魔』なんて使い捨ての物、俺達の役に立てば。それより喜べ依瑠。お前を俺のハーレムに加えてやるよ!!」


 チャラ男は大勢の人々が見る中そんな大胆なことを口走る。


『うわ、【暴君】にまた美人の女性が狙われてるよ…』


『あんなに美人揃いを侍らすのにまだいるのかよ…というか、あの子、何処かで見たような』


『ヤリチンは世界が変わっても変わらんな』


『あれって『人型』の『使い魔』を手に入れた星見さんだよね…どうなるのかな』


 人々は口々に話す。誰も助けようとせずに。


「わ、私は、大地君のハーレムなんて入らない! それに――ナナシは『物』なんかじゃない!! 私の『大切な仲間』なの!!」


「!」


 そんな言葉を聞いたナナシはお面越しに目を見張る。だが、相手は違う。


「…しらけたわ。もういい。お前がそういう態度を取るなら、俺も力ずくでイク。その『使い魔』諸共、わからせてやるよ」


 侍られせていた女性達を離れさせたチャラ男は依瑠――ではなく、ナナシを睨む。


「――主人、離れてろ」


 依瑠を背後に庇い前に出る。


「で、でも。大地君はあの、トロールも一撃で倒す上級者の『探索者』――」


「問題ない」


「! う、うん!」


 たった一言。その言葉に薄く頰を赤らめ目を輝かせた依瑠は、心配半分期待半分で離れる。


「はは、そんな細い体と貧相で頼りないダサい武器で俺に勝てると? 古代物質アーティファクト級の代物を持っていたか知らねえが、お前はレアの代物を持つ価値しかねぇんだよ!!」


 依瑠とナナシの会話が気に食わなかったのか、先程よりもイラついた様子で声を荒らげる。そんなチャラ男に涼しげな顔を向ける。


「雑魚は、よく吠える」


「…上等」


 【暴君】は担いでいた大剣を構える。


「私は寛大だ。ハンデとして手を出さない」


「はっ! それでどう俺に勝つって?」


「無駄話をする時間があるなら、こい」


 右手を前に出して相手を煽る。


「言われなくても――」


「千億歩遅い、ノロマ」


 【暴君】が一歩踏み込む前に背後に既に立っていたナナシはで軽く背を押す。


「え?…ゲヒッ!?」


 何が起きたのか理解ができない【暴君】は武器諸共無様に吹き飛び、空き民家に突っ込む。


『…え?』


 それは依瑠や見ていた人々の感想。


 ただ、理解が追いつかない。


「雑魚は、どう転んでも雑魚。自分と相手の力量差もわからないマヌケは、死ね」


 民家に突っ込んだ【暴君】を冷徹に見る。

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