第2話 三年後はニート生活


 全てが変わった三年前。世界は一度崩壊し、新しく作り変わる、それは一夜にして。

 作り変えられた世界を見て絶望し、それでも人々は前に進む。復興作業を重ねて三年の月日をかけて今の“五区域”を設けた。


 五区域


 それは「東」「西」「南」「北」「中」の五つに分かれる区域。


 ・裕福層が住む東区。

 ・スキル所持者【討伐者スレイヤー】が住む西区。

 ・スキル未所持者【無印ノーマ】やダンジョンに興味を示さない一般人が住む南区。

 ・【超難関ダンジョン】が数多く存在し、ホロウが制覇した始まりのダンジョン跡地「ホロウホール」がある禁足地区域を北区。

 ・そして中央に位置する『ダンジョン』区域に分かれ、海は当然南区に住む。



〈――えぇー、続きまして【今週のホロウ】です。先日起きた中央区域、ダンジョン内の救助で【黒炎】を使う人物が老夫婦を助けたと報告があります。老夫婦の話では――〉


 ピッ。


「……」


 ボサボサの髪を無造作に伸ばし、無言を貫く緑色のジャージ姿の男――名取海は死んだ瞳で黒い画面テレビを眺める。

 

 カコン。


 ポストに届け物がきた音がした。


「……」


 無表情で立ち上がりドアのポストを漁り新聞を取り出し、中身を見る。


【スクープ! ホロウ、ダンジョンから優雅に帰還。その姿は正に絶対者】


 全身を黒鎧で包む謎の人物が映り、そんなことが大々的に大きく取り上げられていて――


「もう、ヤダァ」


 名取海こと全世界で有名人と《探索者:ホロウ》その人は嘆く。


 世界が変わってから早いこと三年。色々と変わった。それは人々の認識や理解。また政府の改心や経済の行方。そして『ダンジョン』が出来たことによりそれを管理する施設や人材。


 頭の硬い老害ばかりの政府は動くことなく検討ばかりでただのお飾りだ。それをよしとしなかった良識があり力を持つ自治体や大手の会社、物理的に力を持った人々はこの機会に立ち上がり力を合わせて政府の改心に成功。

 まず、『ダンジョン』を管理するための施設『探索極棟』を初め役員を募り、人材は直ぐに集まる。それは『ダンジョン』を攻略したいそれを支えたいという人々が多くを占めるが、本当の理由はその代表――探索者世界ランキングに《探索者:ホロウ》の名前があるから。

 「彼が救った世界」「彼と同じ職業」そんな思いのもと人々は『探索者』となる。今では世代関係なくなりたい職業ランキングでサッカー選手やYouTuberを凌ぎ栄えある一位に。


 当の本人は『探索者』でもなければそんなことを認めた訳ではないが気づいたら勝手に祭り上げられ既に取り返しのつかない状況に。


「僕の場合【無印ノーマ】だから事実上『探索者』になれないんだよね」


 勝手に盛り上がる世の中に溜息が出る。


 三年間で一番変わったこと。海から言わせるとそれは“人々の格付け”が一番だと感じた。


 この世界には二つの人種がいる。それはいつの時代も変わらない。有り体に言うなら「持つ者」と「持たざる者」。

 「持つ者」をスキル所持者【討伐者スレイヤー】と呼び「持たざる者」をスキル未所持者【無印ノーマ】と。

 現状【討伐者スレイヤー】が多いことは確かだが、海を含める【無印ノーマ】が世界には存在する。


「…政府…極棟から無理矢理『探索者』にされない分、僕としては気楽」


 そんなことを言う海はスキルを持っていない…訳がなく【焔〈黒〉】。巷で【黒炎】と呼ばれるスキルを所持している。

 世界が変わってから極棟の指示で【鑑定】を使える探索極棟役員により全ての人間のスキルの有無が調べられた。それは海も例に漏れず「バレる」と当時は怯え両親達に頼み込み家の力でどうにかできないかと抵抗を試みたが妹と幼馴染の手により無駄な抵抗に。

 ただ、結果は【無印ノーマ】。そのことに安堵し涙を流す。それを違う意味で捉えた妹と幼馴染が暴れたのが懐かしい。


 あの【鑑定士】がダメだったのかもしくは僕のスキルが特殊だったからバレなかったのかは今となっては確かめる気も起きない。けど、こうして気楽に過ごせて日常を満喫できる。


 今や高校二年生となった海は妹や両親の元を離れてボロアパートにて一人暮らし。

 一人暮らしを始めた理由は妹や幼馴染の手から逃れ――【無印ノーマ】の自分がいると周りから指を刺されると思ったから(実際スキルが無いと知られた数日後から周りの視線は変わった)。


「色々制限されて好きだったYouTubeとかアニメとか見れないけど高校は通信制だし、ほぼほぼニートだよね。ニート最高!」


 小躍りして喜ぶ。《探索者:ホロウ》とさえバレなければ至って普通の青年。それが名取海。


 フッ。空や亜沙姉は僕を探せないだろう。彼女達が『探索者育成学校』に通っていることが一番の要因だけど、極棟にある「お願い」をした僕の抜かりなさはノーベル賞レベルさ。


 ほくそ笑むと一人暮らしをする際に探索極棟にした「お願い」を思い返す。


 海は一人暮らしをするなら誰にも邪魔をされず静かに過ごしたかった。それは家族は愚か幼馴染の侵入も許さない。

 色々と考えた末、妹の空や幼馴染の亜沙が強スキル所持者ということを逆手に使い「よい兄」を演じることに。


“皆の邪魔になりたく無いから、存在自体を無かったことにしたい。兄として友人として”


 そんなことを真摯に――手紙に書いて伝えた。初対面の人と面と向かって話すのは面倒臭いので「手紙」という伝家の宝刀を抜く。


「この三年間、何も音沙汰が無いから僕の存在は闇に葬られたのだろう。僕の意(笑)を汲んで極棟からお金も出るからたまらないよ」


 優雅にお茶を飲みながら独り言ちていた海はテーブルに無造作に置いてあった茶髪のカツラを被り瓶底眼鏡を掛け灰色のパーカーという陰キャ衣装に身を包み出掛ける準備をする。


「と言っても『ダンジョン』は潜るけどね。目立ちたくはないけど、暇だし」


 簡易的な変装を施した海は今日も今日とて『ダンジョン』に不法侵入潜る

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