第17話 覚醒

 「こいつ、強い」


 「私も予想外よ……偽りの魔王と言っていたけど、これで偽りだなんて」


 師匠もかなり動揺しているようだった。当たり前か、ビスという男は四天王とは比べ物にならない程に強いのだから。


 「炎よ、一つとなれ、全となれ、爆裂せよ。炎核爆裂アトミック


 でも、ビスは魔法ではなく魔術を使っている。唯一の救いは、詠唱を聞いてから対処できることだ。


 「氷結雪崩アイスシングウェーブ!」

 「氷結雪崩アイスシングウェーブ!」


 俺と師匠が、炎系最上級魔法の炎核爆裂アトミックに対して魔力の消費を抑えるため一緒に氷系魔法を行使する。だが、これもそう長くは続かない。ビスの魔力には底が見えないからだ。

 一方、俺は既に厳しい。師匠も余裕はあるが、ビスよりは少ないだろう。


 「師匠、早めに決着をつけないと」


 「そうね、でもそう簡単に倒せる相手ではないわ」


 終焉の手エンドライフなら可能性はある。それに、師匠もまだ残している。隙さえ作れれば。


 「守るのに手一杯のようですね、そろそろ終わりにしましょうか」


 今しかない。何の魔法が来るかはわからないが、ここで魔石を使う。

 頼むぜ。


 「トールマン召喚けいやくしょうかん。トールマン、何をするか分かってるな?」


 「……もちろんです」


 トールマンには、全力で魔術を使ってもらう。

 魔石を取り込むと、身体の底から魔力が溢れ出す。副作用があるってのは、知ってるがここで使わないわけにはいかないしな。


 「ふ、おもしろいことをする。まずは、貴様から倒すとしよう」


 「そうはいきません、主は私が守ります」


 「師匠!あれの準備をお願いします」

 

 「分かったわ」


 師匠にも伝えた、トールマンも分かってくれただろう。

 あとは、俺が成功させるだけだ。


 「炎よ、終わりの炎よ――」


 ビスは詠唱を開始した、神級の炎魔法……炎終焉フレイムエンドか。

 トールマン……頼むぜ。


 「氷よ、全てを体温なき無へと変貌させよ、全てをただの白へよ変貌させよ。究極零度ブリザードゼロ!!」

 「終焉を呼ぶ炎よ、消せ。炎終焉フレイムエンド!!」


 ビスとトールマンの神級魔法が、正面からぶつかる。やるなら、今しかない。


 「死の世界デス・ワールド鎖剣チェーンソード!」


 死の世界デス・ワールドで殺すことはできないだろう、だが恐怖心、警戒心少なからずビスの注意は俺に向く。

 鎖剣チェーンソードが壊されても問題ない、少しでも……注意を向けるんだ。


 まだ遠いか……。いや、賭けるか。


 「終焉の手エンドライフ!」

 「馬鹿が……、その魔法は触れなければ発動は――!?」


 「わるいな、こっちは三人なんだ」


 俺は、魔法を同時に扱えないが師匠やトールマンは別だ。

 確かに、ビスとの距離は数m離れているが……風系魔法を背中から行使しその暴風に乗れば届く。


 「トールマン!」

 「暴風ストーム!」


 「ぐっ……土壁ストーンフォール!」


 土の壁を形成したか、でもそれも無意味だ。


 「言っただろ、三人だって」

 「闇を晴らせ、光を照らせ。悪を滅せよ。光の裁きジャスティス


 師匠の魔法は間に合ったようだな。


 「神級……、それも光系だと」


 ビスは既に神級魔法を行使している。さらに、俺に魔法を使ったばかりだ。神級を防ぐだけの魔法も集中力も、すでに尽きているはずだ。


 「……ここまでなのか。いや、ダメだ。こんなところで、死んでは魔王様に合わす顔が――――!!!!!」


 『ビス、もう眠れ』

 

 突如、目の前に現れたのは暗闇。


 「魔王様?」


 ビスが、その暗闇にある何かにそう問う。まさか、あれが……魔王?


 『こいつは我が肉体だ』


 こいつ、と言って指したのは俺だった。は?


 「魔王様……ああ、そうでしたか」


 ビスは、その言葉を最後に光に包まれる。光の裁きジャスティスによって消失したのだ。


 そして、暗闇の何かは俺に迫る。


 『我が肉体、いつか覚えておくんだな。いつか、お前がお前でなくなることを」

 「嘘……だろ?」


 暗闇が俺に入り込んだ後、俺の精神、核それらすべてが覚醒した。

 これが、魔王の力。魔王の精神。


 ――俺の本体?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したらゾンビでしたが @AI_isekai @isekaiAi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ