第15話 ガビ

 「風よ、全てを飲み込め、全てを荒らせ、暴殺せよ。嵐殺テンペスト~」


 可愛らしい声でガビは、そう叫ぶ。


 風系の最上級魔法嵐殺テンペストは、一瞬にして辺りに破壊の痕跡を生み出す。


 「地よ、叩き落せ。地隆起アースクラッシュ

 「地よ、全てを均せ、全てを崩せ。大地震スタンピード


 俺は、地系の中級魔法の地隆起アースクラッシュで前の前に巨大な壁を生み出すと後ろへと大きく飛んだ。

 師匠は、地系の最上級魔法である大地震スタンピードを使い空間そのものを揺らし風を相殺しようと全力で放った。


 「っちぇ……、めんどくさいの」

 

 舌打ちにも聞こえる音を、鳴らすとガビはすぐさま行動に出た。


 「氷槍アイシングランス氷結雪崩アイスシングウェーブ


 氷の槍を、俺の壁に突き刺すと壁に隠れている俺に対して雪崩を起こした。壁ごと俺を、押しつぶす気か。


 「死の軍団デス・レギオン!」


 氷結雪崩アイスシングウェーブは、面制圧能力が高い。特に、城塞などを攻略をするときに使われることもある。しかし、肉の壁を使用すれば……勢いは落ちる。

 俺は、死の軍団デス・レギオンを発動させるとすぐさま方向を転換し逃げる。ひたすらに、雪崩に巻き込まれないように離れた。


 「逃げてばっかじゃ、勝てないよー」


 「そんなの、分かってる。でも、俺は一人じゃないぞ」


 「……!」


 「私のこと、忘れないでよね。光の裁きジャスティス


 俺のことを追っていたガビは、師匠のことを目線から外した。嵐殺テンペストの相殺を終えた師匠は、ガビの背後から迫り光の裁きジャスティスを至近距離で食らわせた。


 「鎖剣チェーンソード、集結、穿て!」


 鎖剣チェーンソードを出現させると、光の裁きジャスティスを食らったガビに追い打ちをかける。


 ……死の接触サクリファイスは、厳しいか。


 「ぷっはー、危ないとこだったよ。それにしても、そこの少年。その魔法をどこで覚えた?」


 猛攻から逃れたガビは目を開き、威圧させるような声で俺に尋ねた。


 「これは、俺の核に刻まれてる魔法だ。どこで覚えたなんて、分かんねぇ。生まれときから持ってた」


 「……!?嘘だ、嘘をつくんじゃない!」


 こいつ、どうしたんだ?

 この異系と呼ばれる魔法に何か隠された秘密でもあるのか?


 「ケント、後ろ!」


 師匠からの警告が無かったら、死んでた。風系の中級魔法なら、無詠唱で行使できるのか?中級魔法の暴風ストームを凝縮して俺の首目掛けて飛ばしてきた。風魔法は、視認する事が困難なのが厄介だな。

 時間が掛かれば、死んでもおかしくない。それに、ここで師匠の魔法を使わせるわけにはいかないしな。

 

 「腐敗した命ノーライフ!」

 

 腐敗した命ノーライフは一時的に身体能力を向上させ、その後は疲労が一気に来るというデメリット付きの異系魔法だ。でも、ゾンビとなってからは、疲労感などは感じないので実質デメリットはない。

 魔力の消費は、上級レベルだが効果は折り紙つきだ。

 

 「貴様……なぜ、異形魔法を扱えるんだ!」


 どうやら、ガビは異形魔法に過剰に反応するようだな。でも、それのおかげで冷静さが無くなるなら楽だ。


 「鎖剣チェーンソード、展開、突入!」


 鎖剣チェーンソードを、俺の前面に展開させるとドリルを模した形でガビに向かって走る。

 ――速い、この速度ならいける!


 「風よ、導け、封じよ、無へとなりて、飲み込め。嵐暴風テンペストストーム!!!!!!!!!」


 神級の風魔法――!?


 「彼方かなたそら!」


 真正面を突っ切る!俺の右足と左手にすべてのダメージを肩代わりさせる。


 腕が弾け飛び、足も引き裂かれる。だが、この体になってから痛覚はない。

 そして、これで届く!


 「死の接触サクリファイス!」


 「そんな魔法、私には効かない!」


 死の接触サクリファイスが効かない!?……仕方ない、代償は大きいがやるしかない。

 異形最上級――触れたモノのすべての生命エネルギーを無へと変える魔法。……代償は、俺の痛覚だ。

 

 「終焉の手エンドライフ!!!!!!」

 

 「なぜ、魔王様の魔法を―――……」


 ガビは、言葉を言い終える前に息絶えた。そして、


 「うああああ、ぐっ……あああぁぁ」


 痛い。痛みがどこか別次元に感じる痛み。これが、身体が弾け飛んだ痛みか。


 「うああああああああ」


 落ち着け。師匠が、治療してくれるはずだ。気を失うな、慣れろ。これからは、痛みを感じるようになるんだから。


 「生命を癒し、身体を修復せよ。生命治癒ライフヒーリング


 「う、うぅぅ……」


 「大丈夫よ、落ち着いて。治癒したわ、痛みも引いていくはずよ」


 師匠の、上級光魔法生命治癒ライフヒーリングで俺の腕や足は修復され痛みも少しずつ和らいでいく。


 「師匠、俺――勝ちましたよ」


 「ええ、本当にすごいわ。大丈夫、ゆっくり休んでちょうだい」


 「でも、魔王が――」


 「ダメよ、今は貴方の体調の方が大事なの」


 「師匠……?」


 「だから、もうこんな無茶しないでよね」


 師匠は、涙を浮かべていた。

 ああ、そうか。俺って、師匠にとって大事な弟子なんだな。


 ――なんでだろ、俺……なんだか嬉しいや。


 「分かりました、師匠。だから、師匠も……死なないでよ?」


 「もちろんよ」

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