第10話 最後の試練

 ――一年後――


 あれから一年、俺は師匠の元で一流の魔法使いとして修業を積んでいた。

 魔法や魔術を師匠から多く学び、それらを自分のものにしてきた。師匠が言うには、俺は才能以前に要領が良いらしい。

 どうやら、俺の魔法を使いたいことへの意欲は他の人とは比べ物にならないそうだ。確かに、元から魔法のある世界に生まれたら魔法を珍しがるようなこともないのか。と少し悲しくなったが、魔法を知らない世界から来たからこその成長だ、意欲がなくなる前にやるだけやってやる……と思っていたら、もう一年も経った。


 そして今日は、最後の試練がある日。

 師匠から秘儀である魔法を教えてもらい、それを使えたら……弟子を卒業できるはずだ。


 「師匠!今日で、俺も弟子から卒業ですかね」


 「何を言ってるのよ、あなたはずっと私の弟子よ」


 「そんな~、どうしたら一人前として認めてくれるんですか?」


 「そうね、私に勝てたらかしら?」


 「無理難題言いますね……」


 こんな会話をしながら、最後の試練を行う地へとやってきた。

 ここは、トゥラースの森の中。

 

 不思議なことだが、トゥラースの森の魔王国側は魔の森と呼ばれている。噂によれば、魔王の四天王が見張っており、そのため魔王国の森という意味で魔の森と呼ばれているそうだ。最近は、ポーラ帝国と聖王国が手を組み魔王の復活した魔王国への宣戦布告を考えているとも聞いたことがあるが恐らくはそのためだろう。


 「さて、ここらへんでいいかしらね」


 「師匠の秘儀、ですね」


 「秘儀というより、ただの最上級魔法だけどね」


 「いや、光系の魔法自体が少ないのにそれの最上級なんて……師匠ぐらいしか使えませんよ」


 「あなただって、光系以外の最上級魔法なら扱えるんじゃない?」


 「試してないから、分かりませんが……いけるかもしれません」


 師匠の秘儀というのは、光系魔法それも最上級である光の裁きジャスティスのことである。


 「そこで、よく見ておくのよ」


 「はい、師匠」


 「ふぅ……ハー、光の裁きジャスティス!」


 深呼吸をした一瞬、師匠の叫びに応じて辺り一面は光に包まれた。そして、獲物を発見し密かに息を殺していた魔獣や魔物は光の裁きジャスティスによって発生した光線によって身体を焼かれ絶命した。


 「なにこれ、すっごい」


 「あなたも、そんな反応するのね。フフフ…ほんとに、面白いわね」


 あまりの威力に、素になり安直な感想が口からこぼれる。師匠はそれを見て、顔を隠しながら笑った。

 はっ、と正気に戻ったときには遅かったようだ。


 「こ、これはですね……」


 「だ、大丈夫だから。誤魔化そうとしたら、余計に面白くって」


 「し、師匠……」


 その反応を見ても、俺は逆に楽しい。師匠と、この時間を過ごせることが凄く幸せに感じる。


 「じゃあ、師匠。僕の最上級魔法も見ててくださいね」


 「あら、光の裁きジャスティスは使わないの?」


 「俺には、光の才能はないんですよ、師匠が言ったんですよ?」


 「そうだったっけ?」


 首を傾げて不思議そうにこちらを見る。


 「……はぁ、その顔反則ですよ。師匠」


 「は、反則って何よ!?」


 「可愛すぎます」


 「……え」


 師匠の顔は、反則だ。油断すれば、自然と笑みが零れてしまうほどには反則だ。師匠に可愛いといったのは、何度目か分からないが可愛いことは確かなのだ。でも、俺のこの気持ちは恋とはまた違う不思議なものだ。

 自分でも、分からないけどこれが恋だったら楽なのに……と思ってしまう。


 「あはは、師匠って毎回これで顔赤らめますよね」


 「だ、だって……可愛いって言われたら普通こうなるでしょ!私も女なのよ」


 「そうですね」


 でも、やはりゾンビになってからは人間の感情が減っているような気がしてならない。無情ではないけど、楽しみは減ってるんだよなぁ。

 それでも、師匠と話しているときは楽しい。


 「そんなのどうでもいいから、あなたの魔法を見せて頂戴」


 「はい、師匠」


 俺の最上級魔法は、闇系だ。

 ノーマン・フェルドン、彼女の使っていた|死の世界《デス・ワールド)の他に存在している闇系の最上級魔法。


 ――死の接触サクリファイス


 「魔獣が来るまで、待ちます」


 死の接触サクリファイスは、俺の手と生命が触れてやっと発動する魔法。それも、生命に触れた状態で魔法を発動させなくてはいけない。厳しい条件だが、その分――威力は申し分ない。


 ――!!


 気配がする、これは――最上級の魔物のだ。それに取り巻きも多い。


 「師匠、この気配は――」


 「ええ、ゴブリンの群れ。それも、率いているのはゴブリンキングよりも上の存在であるゴブリンエンペラーのようね」


 「最後の試練にはちょうどいい、ちょっと倒してきます」


 「気を付けなさいよ」


 「はい、師匠」



 *


 

 「鎖剣チェーンソード、散開、展開、突撃」


 一年も練習してきた鎖剣チェーンソードは、凄まじく強い。動きも洗練され、切れ味や剣の数も初めのころとは比べ物にならない。

 すぐさま、正面に展開しゴブリン群れ目掛けて飛ばす。これで、雑魚は処理できるだろう。


 問題は、ゴブリンエンペラーにゴブリンキング二体だ。一応、中級のゴブリンジャイアントという巨体のゴブリンも数体いるが、それは風魔法で処理をしよう。


 「風よ、爆ぜよ。暴風ストーム


 風系魔法は使えないが、魔術で中級までならカバーしている。俺の正面には、刃を纏った暴風が発生しゴブリンキングとゴブリンエンペラー以外の雑魚を一掃した。

 ゴブリンキングの二体が、全速力でこちらに向かってくるが遅い。


 「地隆起アースクラッシュ炎爆裂エクスプロージョン


 地系魔法の中級である地隆起アースクラッシュで、向かってきたゴブリンキングの真下から撒菱まきびしを模した形の岩石を出現させ動きを止める。その隙に、炎系の上級魔法の炎爆裂エクスプロージョンを放ちゴブリンキングを丸焦げにさせる。

 一応、ゴブリンエンペラーも一緒に狙ったが効果はいまいち。そんなに、ダメージはなさそうだった。


 「じゃあ、あれを使うか」


 ゴブリンエンペラーは、鈍器を手に持ちリーチを活かしながら攻撃をしてくる。うん、強い。剣術に近いが、鈍器専用の構えや動きを達人レベルに身に付けているのだろう。当たることはないが、少しでも油断すれば一発で頭が吹き飛びそうだ。


 「でも、流石のエンペラーでもその重さの鈍器をずっと振り回せるわけないよな」


 魔物は魔獣と違い、知恵を持っている。だからこそ、魔獣よりも体力的には劣っていることが多い。ゴブリンエンペラーともなれば、そうそう体力が切れることはないが回避をされ続ければ、当てようとさらに強く早く振ろうとして疲れるものだ。

 だから、その隙に奴の懐に潜り込み――


 「死の接触サクリファイス


 その一言とともにゴブリンエンペラーは、魂を刈り取られ絶命した。

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