Day14 お下がり

 小さい頃から花嫁さんに憧れていた。

 母や祖母の結婚式の写真を引っ張り出してはうっとりと眺め、レースのカーテンを頭から被って花嫁さんになりきって遊んでいた。

 一歩町に出れば、ブライダルプランナーの店があった。ショーウィンドウの中に飾られた純白のドレスは、スポットライトを浴びてキラキラ輝いて見えた。細かなレースの花が縫い込まれた胸元、ボリュームたっぷりのふんわりしたチュールドレス。

 そのショーウィンドウの前を通るたびに張り付くように見ていたことをよく覚えている。

 でも、今私が着ているのはあの頃憧れたフェミニンなウェディングドレスではなかった。

 つるんとした胸元に硬めのタフタ生地でできたマーメイドラインのドレス。可愛らしさより大人の美しさを際立たせるタイプのドレスだ。

 好みが変わった……というより、世界に一品しかないこのドレスへの強い愛着があったから選んだ。

 実はこのウェディングドレスは祖母が着ていたもの。祖母がデザインして、洋裁の達人だった曽祖母が完成させたドレス。更に母も同じものを着るべく手直しの上にデザイン変更をし、花とフリルを追加した。

 だから、幼い頃から見ていた結婚式の写真にはこのドレスが必ず映っていた。漠然と、いつか同じドレスを自分も着るのだろうと思うほどに。

 そして、今。ウェディングドレスデザイナーになった私は、受け継いだドレスにスリットと和装要素として赤と金の差し色を追加した。

 好みを超えた強い愛着で完成させたドレスは、今まで見たどのドレスよりも凛とした美しさのあるウェディングドレスになった。

 家の姿見の前で母が「綺麗ねぇ」とため息混じりに囁く。

「白一色にとどめないところがあなたらしいわ」

 鏡に映る母の顔は随分皺が増えたけれど、誇らしさの詰まった優しい顔だった。

「お祖母ちゃんたちとお母さんがドレスをちゃんと保管してくれたからだよ。ありがとう」

 振り向いて母の顔を見て言うと、母は目にうっすら涙が揺れていた。

 私に受け継いでくれる子が生まれるかなんてわからないけれど、私の他にも誰かに着てもらえたら嬉しいと思う。





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