28 ヴァルナス皇太子殿下視点

「はい? ステファニーって?」


 バーバラ王太子妃はうつむいていた顔をこちらに向けるとステファニーの姿をとらえ、口をポカンと開けたまま驚きのあまり固まった。


「まさか、ルコント王国のステファニー・ジュベール侯爵令嬢? でも死んだはずだわ。そうよ、髪が緑だし他人の空似よね」


「残念ながらステフはジュベール侯爵令嬢だ。お前らが無実の罪をきせて劣悪な修道院に送りこもうとした可哀想な女性と同一人物だよ」


「あぁ、あれは誤解でしたのよ。ステファニーが緑の妖精王の加護を受けているのならちょうど良いですわ。祖国の危機もきっと救ってくれるでしょう。ルコント王国は今作物がひとつも収穫できずに、民は飢え暴動が各地で起こっています。ステファニー、今こそ祖国を救うのです!」

 キャサリン王妃が父上や俺の許可も得ずにべらべらと話し出す。図々しい女だ。


「お前に口をきいて良いと誰が言った? しかも俺の最愛を呼び捨てにしたのか? 明日にはブリュボン帝国の皇太子妃になることが決定している尊い身を呼び捨てにしたのか!」


「申し訳ございません。ただ、あまりに懐かしくてつい口からでただけなのです。ステファニー様とは10歳の頃からのお付き合いでして、私はずっと目をかけてきました」


「10歳から虐めてきたの間違いだろう? ルコント王国の王宮に仕えていたメイド達の証言はすでに集めてある」


 リッキーが報告書をキャサリン王妃に手渡すと、王妃はリッキーをちらりと眺めて頬を染めた。俺とラヴァーンは苦笑して、キャサリン王妃をまじまじと見つめる。するとこの王妃はますます頬を染めて、俺達を意識しだしたのだ。


 いったいこのルコント王国の王家の女達はどうなっているんだ? 気持ち悪いし、不敬であると思う。


「そっ、それはきっとその者達が嘘を言っているのでしょう。ねぇ、ステファニー様。私達はとても仲良しだったし、あなたは私をとても尊敬してくれていたわよね?」


「そうだよ。ステファニーは僕をいつも支えてくれていたし、僕達は愛し合っていたんだ!」


 俺は男にしては小柄で貧弱な体つきの男の前に歩み寄り、その前に立ちはだかった。


「お前が王太子か? 俺のステフと愛し合っていただと? きさま、もう一度言ってみろ。嘘つきな舌を引っこ抜き、逆さまに宙に吊してやろうか? それとも生爪を小指から少しずつ剥がし、その指を一本一本、ゆっくりと・・・・・・」


「だめ! ヴァルナス様!」

 可愛い声に振り向くと涙をためた俺のステフが首を振って、俺にそんなことはしないでほしいと、懇願した。


「ステフ。大丈夫だ。死なないように上手にやるから」


「もう私のなかでは終わったことなのです。つまらない人達を害する為にヴァルナス様のお力を使うべきではありません。もっと民の為になることや意味のあることで、そのお力を存分に発揮なさってください」


 なんて俺の最愛は優しいんだ! 彼女こそブリュボン帝国の皇太子妃に相応しい。


「・・・・・・そうだな。俺のステフの温情に感謝しろ。お前らは明日、俺のステフの美しい花嫁姿を目に刻みこめ」


 俺や弟達はもっとこいつらを虐めたかったが、ステフが悲しそうな顔をするのでやめた。最愛に嫌われたくないし、ステフの前では天使でいたい。だが、ブリュボン帝国の皇太子としては天使でいるべきではない。俺はステフのいないところで皇家の影を呼び寄せ命令した。


「今から一斉にルコント王国に向かえ。王国のすみずみにまで噂をばらまくのだ。ブリュボン帝国の皇太子妃はルコント王国のステファニー・ジュベール侯爵令嬢だった。無実の罪をキャサリン王妃とレオナード王太子にねつ造された悲劇のヒロインは、緑の奇跡を起こす精霊王の愛し子だった。罪深い王族をそのままにしては、あの地に緑は決して戻らない、と」


「なるほど、民に断罪させるのですね?」

「そうだ。ルコント王国の王族はルコント王国の民達に裁かれる」


「はっ」

「かしこまりました」

「御意」


 多くの声が答えては闇に消える。ルコント王国のクズどもは俺に許されたと思って、明日は気楽に結婚式を楽しむだろう。数日滞在させて観光させてもいいかもしれない。


 愚か者達よ、ルコント王国に帰ったら地獄が待っていることも知らずに楽しめ! 俺が天国から地獄に突き落としてやろう。

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