21 ヴァルナス皇太子殿下の尻尾から目が離せない私

「ぶはっ! 兄上が『最高に可愛い』と言われる日がくるなんて。あっははは」


「お前に言われたら殴るし他の女性に言われたら微妙だがステフなら良い。そうか、ステフには俺の耳と尻尾が見えるのか? 相思相愛の証だ。もうどこにも行くなよ。安心したら腹が減った。ラヴァーン、メイド達に言って食事を用意させろ。お前も食べるだろう?」


「あぁ、そう言えば腹が減ってきたな。ステファニー嬢、わかっただろう? 番が数日いなくなっただけでこれだけやつれる。これが何ヶ月も続けばさすがの兄上も生きてはいない。まぁ、そういうことだ」


 なんて怖いの? だったら私は迂闊に死ねない。


「もし、病気や事故で私が亡くなったらどうなるのですか? ヴァルナス皇太子殿下もまさか私の後を追って・・・・・・?」


「それはない。どんなに辛くても亡くなったステフの後を追うことが許される立場ではない。だが、きっと笑うことも食べ物が美味しいと感じることも二度と無い」


 顔をほころばせながら私にそう教えてくださるヴァルナス皇太子殿下は、今はステフが戻ってきたから最高の人生になった、とおっしゃった。


 『私がいることで最高の人生になる』、この言葉は私にとってはシンプルでわかりやすかった。女性にとって最も嬉しい愛の告白だと思う。


 私はそっとヴァルナス皇太子殿下の耳に触れた。それに合わせて尻尾がピンっと立つ。猫はよく嬉しいときにこのようになる。 しっぽの先端がわずかにぴくっと動くのは特にうれしい時で、ヴァルナス皇太子殿下の尻尾も動いていた。きっとライオンも猫と同じかしら?


 それからの私はヴァルナス皇太子殿下の尻尾に魅了されている。あんまりそちらばかりを見つめる私に「俺の顔より尻尾が好きか?」と心底悲しそうな顔で訊ねる彼。にこやかな笑顔で小さく笑う私。


「殿下の尻尾だからずっと見ていたいのですわ。最高に可愛いです!」


 また殿下の尻尾がピンと立った。わかりやすくてとても愛嬌がある。きっとこれは番の女性に与えられた特権なのだろう。獣人の深い愛に戸惑わないように、愛らしい姿を見せてくれる魔法だわ。獣人が番の人間からも愛を得やすいように神が与えたものだと思えば納得できた。




❁.。.:*:.。.✽.




 私達3人が和やかに食事をしていると、宮殿内が騒がしくなり始めた。


「サスペンダー公爵令嬢がまたお見舞いに来られています。今日はどうされますか? 断りますか?」


 侍女が慌ててこちらに報告に来た。


「食事がまずくなるから会いたくない。いや、待てよ。こちらに通せ」


 ヴァルナス皇太子殿下は私が見たこともない黒い微笑を浮かべ、目には謎めいた光を浮かべていた。


 


 

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