20 ヴァルナス皇太子殿下が可愛い

 私が壮麗でやたらと大きすぎる宮殿をラヴァーン皇子殿下と歩いていると、進行方向からこちらによろめきながらも必死で歩いてくる人物が見えた。まさかヴァルナス皇太子殿下とは思わなかった。あの自信に満ちあふれていた彼が憔悴しきっていたのよ。


「どこに行っていたんだ? ・・・・・・ラヴァーンおのれ、俺の最愛に手を出すとは死にたいのか?」


「まさか。ステファニー嬢が兄上とサスペンダー公爵令嬢との恋路を邪魔したくないと懇願してきたので、ちょっとかくまっていただけさ」


「サスペンダー公爵令嬢との恋路? 彼女はただの従姉妹だろうが。恋なんて初めからない」


「あの女が大泣きして彼女にすがったから、同情したのだろう。部下達の話では、『私からヴァルナス皇太子殿下をとらないで』と盛大に泣きわめいたらしい」


「ステフ、君はサスペンダー公爵令嬢に泣かれたぐらいで俺を諦めるのか?」

 やつれた顔で私を見つめた彼は泣きそうだった。姿は大人だけれど子供のように傷ついた目をしている。水も飲めなかったとつぶやかれた時には、心底申し訳なかったと反省した。


 同情なのか愛情なのかわからない気持ちが私に芽生え、こんなにも衰弱しているヴァルナス皇太子殿下の看病は私がしなければと決意した。


 そう思って改めてヴァルナス皇太子殿下の精悍なお顔に目をやると頭にぴょこんと耳が見えた。

「ヴァルナス皇太子殿下、頭の耳はどうなさったのですか? さきほどまではなかったのに」


「ぷっ、あっははは! ステファニー嬢は兄上の耳が見えるのか? 間違いなく番だな。俺達獣人の血が混ざった本来の姿を見ることができるのは番だけらしい。俺には兄上の耳も尻尾も見えない」


「尻尾?」


 私はヴァルナス皇太子殿下の尻尾を確かめる。


 まさかあるわけ・・・・・・あった・・・・・・可愛い尻尾がゆっくりと左右に揺れていた。 


「ヴァルナス皇太子殿下、最高に可愛いです!」


 思わず心の声が口にでてしまった。

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