14 私が最愛?

 目の前に差し出されたフォークから、私がパクリとお肉を食べると、とろけるような笑顔を浮かべる。


「よくかんで。ゆっくりで良いぞ。次は野菜だな。トマトは食べられるか?」

「えぇ、大好きですから」

「トマトが好きなんて可愛いな。他に好きなものは?」


 私は苺やサクランボなどが好きなことを申し上げる。果物や野菜はなんでも好きだ。


「苺にサクランボ? そうか。可愛い人は好きな物まで可愛いな」


「へ?」


「げふん、ごほん、けほん! お嬢様にそのような軽口はやめてください。この方は高貴な方なのです」

 アデラインが勇気を出してヴァルナス皇太子殿下に抗議をしてくれた。でも・・・・・・


「もちろんそんなことはわかっているさ。かなりの教育を受けた高位貴族のお嬢様だな。立ち居振る舞いや仕草のひとつひとつに品がある。おっと、次は魚を食べなければいけないぞ。ちょっと待ってろ。今、骨を取り除いてやるからな。その華奢な身体に骨が刺さったら死んでしまうかも知れない」


「は?」


 いきなり甘やかされてどうしたら良いの? この方には順序というものがない。好きになる前にお互い名前を名乗って挨拶をして、それからお互いの両親と引き合わせて・・・・・・そこまで考えたら私の頬に涙が伝わった。お母様、お父様、もう二度と会えないのかしら・・・・・・


「どうした? どこが痛い? 医者に診せたほうが良いか? どこが辛いんだ?」


 今会ったばかりの方に身の上話などするつもりもなかった。私の立場は複雑なのよ。絶対秘密にしたい。


 私の手を握りハンカチで涙をそっと拭いてくれる。


「さぁ、鼻もかんでいいぞ。ハンカチはいくらでもある。せっかくの綺麗な顔が台無しだぞ。まぁ、泣いた顔も可愛いから俺は良いが。えぇっと、名前を聞いていなかったな」


「ステファニー様でございます」

 アデラインはあっさりと私の名前を伝えてしまう。なぜよ?


「そうか。じゃぁステフと呼ぼう。ステフ、さぁ深呼吸して泣き止むんだ。お茶を飲んで気持ちを落ち着けて。俺がいればなにも悪い事はおこらない。わかるな? 俺がいれば大丈夫だ」


 言われたとおりにお茶を飲み、差し出されたフォークから肉、野菜、魚と順番に食べていく。私がちょうど良い量を食べ終えたところで苺が運ばれてきて、ヴァルナス皇太子殿下がスプーンの背でそれを丁寧に潰し、ミルクと蜂蜜をかけて私の前に置く。


「苺ミルクは好きか? これはよく幼い頃に母上が作ってくれたし、妹の好物だから女性は好きだよな?」

「あ、えぇっと、私はそのまま食べる方が好きです」

「そうか。そのように好みを言ってくれると嬉しいぞ。サクランボも頼んでやろう。甘いケーキも食べられるか?」


 美しい顔がぱっと輝き、私を見つめて微笑む。いそいそと苺にサクランボとケーキを追加しながら、自分は蒸し鶏を召し上がっていた。


「鶏肉がお好きなのですね」


「あぁ、俺はなんでも食べる。好き嫌いは特にない。でも、そうだな。俺の一番の好物はたった今、トマトと苺とサクランボになったよ」


 レストランにいる人達が聞き耳を立てていて、今のヴァルナス皇太子殿下の言葉に拍手喝采をした。


「ヴァルナス皇太子殿下が最愛を見つけた! おめでとうございます」

「おめでとうございます!」


 これはいったいどういうこと? そうして、私はもうひとつ思い出していた。この国の皇族に流れている血を・・・・・・





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