第20話 本屋あるある

 いずれいずこにもあらぬもの。滅んだとて。




 近日入荷された本達が、平台に並んでいる。華やかな装いでもって、誘惑の題を冠している。煽りの帯のきらめくも甚だしく、あなたは閉口して、奥の本棚へとそそくさ逃げ込む。あんまり若いのを、あなたは好まないのだ。

 ちょいと小路に入ると、左右にレーベルが並んでいる。本棚には、あなたのお手がつくまでは、妄りに表紙すら見せぬと言わんばかりに、何冊もの本達が、つんとすまして背を向けている。見た目よりも中身を重視するあなたには、こちらのがお似合いなのだ。馴染みの名前を、あなたはまず探す。新刊はまだ出ていないようだ。ほうぼうの店を眺め、ゆっくりと歩き、そしてまた戻ってくる。

 あなたは週に何度も来るような物好きだから、だいたいの名前をもう覚えている。あれは買おうとしてやめただとか、これは続刊が出ているけど、もういいや、だとか。あなたが生まれるよりもずっと昔から存在している、年増も相変わらずある。やっぱり安心はするけれど、わざわざそんなものを新品で買おうとは思わなくて、新古書店で安く買い、また売り飛ばすか、あるいは、お前なんぞに金はかけられぬと、図書館で借りて読む程度だ。

 柔らかい物語は好まない。かといって、刺激の強すぎるのもまた同じく。

 じゃあどんなのがいいのかと言われて、答えられないのがこの種の常だ。おとなしい表紙の癖に大胆な題を持つ小説を、あなたは少し眺めてみる。あらすじを読んで他人の評価を知り、冒頭を軽くなぞっては、読めるかどうかの判断をする。まずは読めるかどうかが大事であり、その次に読み進めたいと思うかどうかだ。一度それを棚へ戻し、何冊か同じようにつまむ。ぐるりと一周して、最後に気になったものだけを、一冊買う。

 願わくば、その一冊が人生にときめきを与えるものでありますように。



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