第6話 アンフェア

 ところが、勝ち名乗りを受けたのはなぜか本校チームだった。耕太郎はびっくりして我が耳を疑った。


 耕太郎らの担任は別の試合の審判をしていてその場にはいなかった。代わって学級委員長の女子児童が五人の仲間を従え、ゲームを仕切っていた見ず知らずの若い男性教師に抗議をした。


「先生、本校は元外野を入れて7人アウトです。私たちは一人もアウトになってません。なのに、なんで私たちの負けなんですか。」


 理路整然とそう訴えた。ところが、教師は煙たそうな表情を浮かべただけで、まとも取り合おうとしない。


「先生、答えてください。」


 委員長がさらにそう迫ると、教師は蝿でも払うかのように手の甲を二、三度はためかせて言った。


「勝負はもうついたんだ。いいから整列してあいさつしない。」

 

 はじめ耕太郎は成り行きを仲間とともに少し離れたところから見守っていた。どういうやり取りをしているのか細かいところまでは聞き取れなかったが、こちらの言い分がなかなか聞き入れられないことだけはよく伝わってきた。この間、心臓はますます強く脈打ち、耳の奥でどくどくと血潮がたぎっていくのを耕太郎は感じていた。


「まったく物分かりの悪い。いいか、スポーツは礼に始まり礼に終わるものだ。対戦相手に敬意も払わないような連中には最初からトーナメントに参加する資格なんてなかったんだよ。わかったら、一列に並んでお辞儀をしろ。」

 教師はぞんざいに言った。


「いやです。」

 委員長はきっぱりと言い放つと相手を睨んだ。


「なんだ、分校じゃ礼儀も教わらないのか。」

 蔑むように吐き捨てた。イライラしてきたものと見えて声が大きくなった分、耕太郎もその言葉をはっきりと聞き取ることができた。そのとき心の中で何かが弾けるような音がした。そして一人猛然とその男性教師に駆け寄って食ってかかった。それは普段の様子からはとても想像もつかないほど激しいものだった。


「いったい何を見てんだ。それともルールを知らないのか。誰が見たって勝ったのは俺たちじゃないか。それでも本校が勝ったと言うなら、そんなのはただのイカサマだ。」


 教師は怒りに満ちた目で耕太郎を一睨みしたかと思うと、無言のまま耕太郎の脳天目がけて持っていたボールを振り降ろし、すかさず左右から挟み込むようにビンタをした。同級生らは恐怖に立ちすくみ、当の耕太郎はわが身に降りかかってきたことがのみ込めず呆然となった。

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