第6話


 井ノ元は異様な空気に吞まれたのか、既に呼び出されている面子に逃げ場は無いと確信したのか、おずおずと従う。


 すると守谷が井ノ元と入れ替わるように、一歩下がって俺へ身をひるがえしながらシーへ言った。


「じゃあお説教が終わったら呼んで。私電話して来るから」


 シーは守谷へ首を巡らせる。


「足立に?」


 守谷は涼しい顔でスマホを取り出した。


「そう。部に忍び込んだ事への注意っていう副部長としての仕事と、私の彼氏が私に黙って親友へナンパ紛いの事をした件とは別物だし、混同してこの人達に問い詰めなきゃいけない訳でも無いから」


 守谷はスマホを耳に当てながら歩き出すと、俺へ言う。


「それじゃあ、ブレーキ役宜しくね」


 守谷は教室に戻らず、階段を下って消えた。


 ……相変わらず、酷く冷静な奴である。彼氏が親友に手を出したかもしれないと知らされたのに、毒の一つも吐かないとは。伊達にバンド内でのシーのブレーキ役を担ってる訳では無いって事か。


 シーは慣れているんだろう守谷の落ち着きっぷりに感想を抱いている様子は無く、捕まえた四人へ向き直ると切り出した。


「この写真について知ってる事を話して」


 守谷に送ったものと同じ、足立が首無しになっているのを隠した状態の写真を表示したスマホを、四人へ見えるように持ち上げる。


 四人は写真に目を見張った。


 シーは無駄な問答を省くように説明する。


「これは、一週間前に足立とモトを含めた六人で、あなた達が行った肝試しの際に撮った写真。昨日撮影者のモトからキイに送られて来た。キイとモトは、私とユウの友達」


 シーはキイへ視線をやって、接点の無いだろう四人へキイとは何者かを示した。


「モトは今日欠席してるから、どうしてキイにこの写真を送ったのかは確認出来てない。だから、何でモトがあなた達の写真を無関係のキイに送ったのか心当たりがあったら話して」


 原部が縮こまったまま口を開く。


「……何でわざわざそんな事くんだよ。この件をお前らにバラす為だって分かるだろ?」


「確証が取れないものは憶測。だからあなた達を呼んだ。肝試し当日、モトを除いた五人でうちの部室に忍び込んだのは事実?」


 原部は強気な態度を見せる為に言葉を発したのか、歯牙にもかけないシーに不貞腐れた。


「ちっ。ああそうだよ。悪かったよ」


「その言葉も本心かどうか確かめられるまでは嘘かもしれない。反省の証拠として私達の問いには真面目に答えて。嘘が見つかったら改めて問うた後、嘘の回数と重さによって決めた内容の報復を、足立を含めたあなた達五人に食らわせる。うちの軽音部はお化け屋敷扱いされるのをどれだけ嫌がってるか、分からない訳じゃないからあなた達は忍び込んだ」


 いやいや復讐なんて俺もキイも聞いてねえぞ。


 緊張しながらシーが暴走しないよう注視する。まさか守谷の奴冷静なんじゃなくて、シーが予想以上にキレてるのを察して俺に投げたか?


 キイはシーの攻撃的な言葉に、「ひええ」と情け無い声を漏らした。並ばされた四人は言うまでも無い。内二人は鬼の副部長の実態を知っているからか、首にナイフでも向けられたように背筋を伸ばして息を呑む。もう涼しい顔をしているのはシーだけだ。その内側では、血が煮えるような激憤が渦巻いている。


「肝試し当日、あなた達六人は何をしていたのか話して」


 あくまで冷静に尋ねるシー。


 だがそれは事実確認と報復内容を決める為の理性であって、もう謝罪だけでは何があっても許さないと示す冷厳に過ぎないと誰しも分かる。


 もう問われた四人の反抗心は、跡形も無く削ぎ落とされていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る