月のなみだ

 月の欠片を拾った夜、アオはそれをこっそり隠したんだって。

 あんまりそれがきれいだったから。

 青白く光って、銀色の雫を放つ月の欠片。

 あたしはアオとそれを眺めた。

 きらきらして、とてもきれいで、そして。

 

 夜のお散歩をしていたら、アオに呼び止められた。

「ニナちゃん、あのね、ぼくね、昨日いいもの拾ったの。ニナちゃんにあげたくて」

 雷のアオは少し照れたように言う。アオとあたしは特別に仲良しなんだ。

 あたしは精霊。薄い羽でひらひらとアオ顔の前に行く。

「なあに?」

「こっちに隠してあるの」

 アオの頭に乗り、隠し場所へいっしょに行く。


 すると、木陰にぽわっと光るものがあった。

「わあ、きれい」

「でしょう! 月の欠片みたいなんだ」

 あたしはアオとしばらく月の欠片を眺めた。あんまりきれいで、時間を忘れてしまった。

 月の欠片からは、銀色の雫が放たれて、辺り一面ににじんでとけていった。

「なんだか、月のなみだみたいね」

「うん」


 すると、その月のなみだがあたしにぴしゃんと飛んで来た――と、あたし、またおっきくなっちゃった!


「ニナちゃん!」

 アオにぎゅっとされる。あたしもアオをぎゅっとする。

 大きくなると、ぎゅっと出来ていいね。

 あたしはアオを顔を見合わせて笑い、手をつないだ。アオの手、あったかい。アオ、だいすき!


 アオがあたしをじっと見た。そして、あたしにキスをした。

「えへへ」

 アオの顔がもう一度近づいてきたとき、あたしは月の雫の光を放って、小さくなってしまった。そして、月の欠片を見ると、銀色の雫をいっぱいに広げて、そうしその雫は天に昇って、天の青白い月に届きそうになっていた。


 天の欠けた月と、地上の月の欠片。

 それが、銀色の糸でつながり、地上の月の欠片は天に昇っていこうとしていた。

 そのとき、がさっと音がして、小鬼のレイが現れた。

「おい、月の欠片がなくなったんだけど、何か知らない? 神さまに言われて探しているんだ」


 あたしとアオは、天を指さした。

 月の欠片は、もうかなり高いところまで上がっていた。

「きれいだな」

 レイが言って、あたしもアオもうなずいた。


 ほんとうにきれい。この世界も、みんな。

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