第37話:返り討ち

 僕は待ち伏せしている敵と戦う前に、もう1度状況を確認した。

 自分の装備には何の不足もない、完璧に準備できている。

 女の子たちの装備も完璧に準備できている。


 ウラジオストクダンジョンの地下1階には予備のドローンを置いている。

 何かあった場合は、直ぐに地上に送って自衛隊と連絡が取れる。


「エリア・スリープ、エリア・パラリシス 、エリア・リジディティ、エリア・ミンララゼイション」


 敵がレベルアップした体で耐える可能性も考えて、4つの魔術を使った。

 眠らせる、麻痺させる、筋肉を硬直させる、石化させる。


 最後のはやり過ぎだと思われるかもしれないが、ダンジョンから出せば元通りになるのだから、やり過ぎでも何でもない。

 殺さずに捕らえるという、優しさが詰まった石化だ。


 いくつも重ねてかけてある探知系魔術で、4つの捕縛系魔術を耐えた、油断できない敵がいないか確かめる。


「竜也君、またとんでもない呪文を聞いたんだけど、どうなっているの?」


 深雪お姉さんが、あきれ果てたという表情で聞いてきた。

 大したことじゃないのに、そんな顔をしないで欲しい。


 それに、深雪お姉さんも魔術に関する知識があったんだ。

 物理的な戦闘術にしか興味がないと思っていた。


「敵を殺さずに捕らえるために覚えた魔術です」


「竜也君には当たり前のことかもしれないけれど、私たちには魔術を10個近くも覚えているなんて、信じられない事なのよ。

 いえ、10個どころではなく、もっと覚えているのよね?」


 月奈お姉さんもあきれたという表情をして言ってきた。

 ただそれに加えて、自分の覚えたいという意思が伝わってくる。

 月奈お姉さんなら、教えたら1つや2つは覚えられるかもしれない。


「もっと覚えてはいますが、どうしても必要な時しか使いませんよ。

 誰がどんな魔術を使えるかは、他人に知られてはいけないのです。

 敵に知られてしまったら、対策と取られてしまいます」


「分かっています、おばあさんからも厳しく言われましたから」


 月奈お姉さんが顔を青くしている。


「私もタカラブネファミリーに殺されるのは嫌だわ!」


 深雪お姉さんも分かってくれているようです。

 普段のおばあちゃんはとても優しいですが、一族の命がかかっている事にはとても厳しくて、僕の使う魔術を他人に話したら殺すとおどかしていました。


「私は竜也君が困るような事は絶対に言わないわ!」


「ありがとう、桜ちゃん」


「ねぇ、魔術を教えてもらうにはどうすればいいの?」


 いきなり葵がとんでもない質問をしてきた。


「私たちのファンがネットで言っていた、協力要員になったら教えてもらえるの?」


 葵も成長したのかな、月奈お姉さんのように色々調べるようになっている。


「協力要員程度では、一族の秘密とも言える魔術は教えられない。

 教えられるのは、血のつながったタカラブネファミリーだけだよ。

 後は、血のつながったファミリーと結婚した相手だけ」


「だったら私が竜也君と結婚したら魔術を教えてもらえるの?」


 葵がとんでもない事を言いだした!


「教えてもらえるけれど、僕はまだ小学生で、結婚なんて考えていないよ」


「そんな事、分かっているわよ、将来の話よ」


 女の子は直ぐに恋愛だとか結婚だとか口にする。

 従妹もまだ10歳なのに、好きだとか付き合うだとか言っていた。

 言われたこっちは何て返事したら良いか分からず困るのだ!


「僕は結婚よりも前に世界一のトレジャーハンターになるんだ!

 家の人間と結婚して魔術を覚えたいのなら、結婚相手を探している親戚を紹介してあげるよ」


「何言っているのよ、私だって小学生よ。

 将来の話をしているだけじゃない、今直ぐ結婚なんてしないわよ」


「葵、いいかげんにしておきなさい、竜也君が困っているでしょう」


 月奈お姉さんが葵を叱ってくれた。

 敵を無力化してこれからという時に、意味もない事を言わないで欲しい!


「は~い、もう言いません」


「ケッコン、タカラブネファミリートケッコン。

 サクテキヤマヒノマジュツナライラナイ、コウゲキマジュツガアルナラホシイ。

 リュウヤ、コンヤクデハダメナノカ?」


 ルナがまたとんでもない事を言いだした。


「そんな事は俺に聞かないでくれ、俺まだ国際デビューしたばかりの小学生だ。

 結婚や婚約の話は、家に帰ってからおばあちゃんにしてくれ!」


「確かにそうね、婚約で魔術をしえてもらえるのなら、おばあさんに聞いてみて、真剣に考えないといけないわ」


 月奈お姉さんのめがいつにも増して真剣だ。

 そんなに魔術を覚えたいのだろうか?


「ねえ、ねえ、ねえ、攻撃魔術もあるんだよね?

 どんな攻撃魔術があるのか教えてくれない?

 凄い攻撃魔術があるのなら、真剣に婚約を考えないと!」


 もう葵の相手をするのは嫌だ!


「それも家に帰ってからおばちゃんに聞いてくれ。

 それよりも、動けなくなった敵を地上に運び出すよ。

 1階のドローンに地上の様子を探らせるから、戦える状態に戻って!」


 ☆世界的アイドル冒険者、鈴木深雪のライブ動画


Rafael:みゆき姫のライブが再開されたぞ!


藤河太郎:よかった、無事だったのだな!

    :Rafaelたちが地上の敵を捕まえてくれたお陰だ。


Rafael:いや、自分たちのためでもあるから、当然の事だ。


雷伝五郎:謙遜するな、安全な樺太から危険なロシア領に戻ってくれたのだ。

    :深雪ファンクラブとしてお礼の言うのは当然だ。


Benno:俺も深雪ファンクラブだから、当然のことをしただけだ。


藤河太郎:いや、深雪ファンクラブのメンバーでも特別だ。

    :実際にみゆき姫のために命を賭けられる者は少ない


雷伝五郎:俺もそう思う、Rafaelこそ真のファンだ。


Rafael:ありがとう、そう言ってもらえるとうれしいよ。


ノンバア:実際問題、地上は完全に安全になったのか?


Rafael:残念ながら完全に安全とは言い切れない。

  :ただ、誰が信じられるか分からないから、ロシア人を近づけないようにした。


ゆうご:それは、Rafaelたちにも適用されるのか?


Rafael:ああ、深雪ファンクラブの中にスパイがいる可能性もある。

  :現実に樺太に逃げ込んだ者の中にスパイがいた。


Benno:哀しい事だが、それが現実だからな。


Rafael:ああ、その上で、みゆき姫たちの安全を確保できるようにした。


ゆうご:ありがとう、よくやってくれた。


Rafael:みゆき姫のために当然の事をしただけだ。


Benno:それで、これからどうするのだ?


Rafael:地上と地下で捕らえた連中を裁判にかける。


ノンバア:モスクワ臨時政府は認めているのか?


Rafael:認めている、認めなければ沿海地方は独立すると言ってある。


雷伝五郎:沿海地方の独立、中華や北が侵攻して来ないか?!


Rafael:日本と合衆国に支援を願っている。


雷伝五郎:日本はともかく、合衆国の操り人形にされないか?


ノンバア:そうだぞ、そんな事にあったら最悪だぞ!


Rafael:だいじょうぶだ、最初から独立する気はない。

  :スパイをこちらで裁くための駆け引きだ。


★★★★★★


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