第36話:待ち伏せ

「今から探知の魔術を使う」


「え、竜也君は探知の魔術まで使えるの?」


 深雪お姉さんがとても驚いている。

 僕の家では、ダンジョンで魔術が使えるのが当たり前なのだけれど、一般的な冒険者では魔術が使えない。


 魔術が使えるようになるには、最低でもレベルが100は必要だ。

 その上で、隠し扉から魔術書を探し当てないといけない。

 黎明期や混乱期に冒険者になった者でなければ、手に入れられない代物だ。


 最近冒険者になった者、いや、安定期に入った20年前くらいから冒険者になった者には、魔術はとても遠い存在なのだ。


 ただ、それは表向きに語られている話だ。

 実際には、魔術の中には魔術書がなくても覚えられる物がある。


 レベルを上げないと無理だが、ダンジョンの壁に書かれている文字を解読して分かった、呪文を唱えれば使える魔術もある。


「エリア・スキャン、ディスタント・ビュウ、プレゼンス・ディテクション、インフラレド・ディテクション、アルトゥラサニク・ディテクション」


「竜也君、まさかとは思うけれど、全部探知の魔術なの?」


 今度は月奈お姉さんが聞いてきた。


「はい、敵はマフィアだけでなく政府や軍の残党まで加わっています。

 ダンジョンでレベルアップした者たちが、最新の兵器や防具を使ってきます。

 視覚、聴覚、赤外線、気配察知など、使える探知術は全て使います」


「それで、敵は待ち構えていそう?」


「浅い階でおそって僕らに逃げられるのを恐れているのでしょう。

 地下35階で待ち構えているようです。

 遠見で確認しましたが、自動小銃と戦闘用スーツで武装しているだけでなく、戦闘用ドローンはもちろん、装甲車と戦車まで持ち込んでいます」


「魔剣は貸してもらっているけれど、銃器を持っていないわよ。

 この状態で勝てるの、いえ、ハッキリと聞くは、生きて帰れるの?!」


「僕は遠距離攻撃魔術を覚えていますから、安心してください。

 敵は各種地雷を仕掛けて待ち構えていますが、これまで学んできた罠を避ける動作をしてくれたら、地雷が爆発する事はありません」


「竜也君がそう言うのなら信じるわ」


 僕たちは一気に地下33階まで潜った。

 モンスターを出現させないようにして駆け下りた。


 どうしてもモンスターが出現してしまう、下に降りる階段前は、出てきたモンスターを無視して駆け抜けた。


 直接地下35階まで下りなかったのは、戦う前に女の子たちを休ませて、心身共に万全の状態にしておきたかったから。


 女の子たちを人間と戦わせる気はない。

 モンスターを倒し過ぎて感覚がおかしくなっているかもしれないけれど、女の子たちに人殺しをさせる気はない!


 僕もできることなら人は殺したくない。

 おそってきたら返り討ちする覚悟はしているけれど、まだ人を殺した事がない。

 できることなら一生殺したくない。


 お父さんとお母さんは、宝探しのために人を殺した事があると言っていた。

 殺されそうになったから、手加減できる状態ではなかったから、しかたなく人を殺したと言っていた。


 だけど、もっと相手よりも強かったら、殺さずに捕らえる事ができたかもしれないとも言っていた。


 だから僕は、寝る間も惜しんでレベルアップを重ねた。

 地上では少し強いだけの小学生だけれど、ダンジョンの中では軍隊が相手でも生け捕りにできる、強いトレジャーハンターになりたくて!


「準備は良い?」


「任せなさい、竜也君がしくじったら、私が助けてあげるわ!」


 深雪お姉さんが力強く答えてくれる。


「竜也君ならだいじょうぶだとは思うけれど、何かあったら任せて」


 月奈お姉さんも僕を助けると言い切ってくれる。


「竜也君ならだいじょうぶ、私は信じているわ」


 桜は僕を助けるなんて大きな事を言わない。

 ただ僕を信じていると言い切ってくれる、うれしいな。


「今度は私たちも自動小銃くらい持ってこない?」


 葵が急に現実的な事を言いだした。

 確かにあまりレベルアップしていない冒険者には、自動小銃でも効果がある。


 だけど、もう葵くらいのレベルになると、小銃弾くらいでは殺されない。

 強化された皮膚と筋肉以前に、体にまとう気や魔力ではじき返してしまう。

 それに、家の最新スーツは小銃弾程度では傷1つつかない。


「ワタシモテキニツッコミマス!」


 ルナは完全にバーサーカー状態だな!


「僕が良いと言うまでは隠れていて。

 手助けが必要になったら呼ぶから、それまでは絶対に出てこない!

 深雪お姉さん、ルナがバカな事をして僕の足を引っ張らないように、ちゃんと見張っていてください!」


 ☆世界的アイドル冒険者、鈴木深雪のライブ動画


Rafael:みゆき姫たちを案内した臨時政府要人が旧政府の残党だった!


藤河太郎:なに、みゆき姫は無事なのか?!


Rafael:竜也君が全ての歓待を断ったから、罠が空振りした。


雷伝五郎:さすが竜也君だ、罠を見抜いていたのだろう!


Benno:見抜いていたのかは分からないが、警戒していたのだろう。


藤河太郎:そうだな、ダンジョンの中ならともかく、地上では小学生だからな。


雷伝五郎:それで、そのスパイはどうなったのだ?


Rafael:モスクワ臨時政府に伝えた上で、現地の同志に確保を頼んだ。


ノンバア:臨時政府の中にはまだ裏切者がいるはずよ。

    :事前に連絡したら、逃げてしまうのではなくて?


Rafael:証拠が弱いから、逃げてくれた方が後々楽なのだ。


ゆうご:なるほど、そういう事か、よく分かった。


Rafael:それに、モスクワの裏切者をあぶり出すのにもちょうど良い。


Benno:色々と大変だな。


Rafael:俺たちは日本に集団帰化できそうだから良いのだが……


ゆうご:ロシアに残るしかなかった者たちを助けてやりたいのか?


Rafael:ああ、少しでも楽に暮らせるようにしてやりたい。


Benno:そうだな、自分たちだけが幸せになったら後味が悪いからな。


ノンバア:Rafaelは優しいな。


Rafael:自分が命を失わない範囲、少しだけだがな。


Benno:それでも十分立派だよ。

   :多くの奴らが私利私欲に走っているのに、よくやっているよ。


Rafael:少しでも良い形でロシアという国が残って欲しい。


ノンバア:よし、深雪ファンクラブは全面的にロシアを支援するぞ!


雷伝五郎:そうだな、サイレントリュウヤと組んで他国の併合を抑えられたんだ!

   :少しくらいは復興の手助けができるはずだ!


Rafael:ありがとう、助かるよ。


雷伝五郎:ロシアを庶民が住みやすい国にするぞ!


★★★★★★


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