恐ろしき魔法

「貴女が、クレマンスと言う魔法使いですか」


「はい。マティルドゥ様」


早速、マティスは、マティルドゥに会うようにと、クレマンスを、入学して一週間後、城へと迎え入れた。


「お母様、私は、このクレマンスを、王女として、我が王族に嫁がせたいと思っております」


「え!?」


「ふふふ。そう、驚く事はありません。クレマンス、貴女の噂は、リュカから聞いています。とても優秀で、素晴らしい人材だ、と。そして、今、貴女の心を覗かせていただきました。貴女は、本当に綺麗な心の持ち主ですね。私も、貴女ならば、マティスの妻に相応しいと考えます。どうですか?」


「……わ、わたくしで良ければ、是非、嫁がせていただきたいと……!」


クレマンスは、決心をした。


「本当か!? クレマンス!!」


マティスは大袈裟に喜んだ。


そうして、クレマンスは、「ウニヴェルシタ」を中退し、王族のしきたりや、礼儀作法などを学ぶために、結婚の前から、お城に引っ越しをした。勿論、クレマンスの両親にも、立派な部屋が用意され、クレマンスは、幸せの絶頂だった。


しかし、その一方、マティスは、悩みに悩んでいた。どうしても、三つの魔法を生み出すことが出来ず、とうとう、二十五歳を迎えてしまい、「ウニヴェルシタ」を卒業できなかったのだ。


クレマンスは、その点、「ペルフェット・ドクトラ」になれる十二分に資質があった。だが、王族の心得を学ぶのに必死で、両方を担うことのできるほど、「ウニヴェルシタ」を卒業をするのは、ほぼ、無理な話だった。


それを、リュカだけは、どうしても、納得できずにいたが、クレマンスの他に、王国の王女になれる魔法使いも、クレマンスを除いてはいないだろうことも、分かっていた。







そんな時、あんな事が起こる事を、一体、誰が予想しただろうか――……?
















既に、引っ越してから、一ヶ月、やっと、礼儀作法やしきたりなどを身につけ、中身も姿も、王族となったクレマンスと、マティスの結婚披露式典が、この日、国民の前で、始まろうとしていた。


大舞台で、緊張するクレマンスの手を握り、マティスは、優しく微笑み、


「大丈夫だ。クレマンス。君は、堂々と国民に誇れる我妻だ」


「えぇ。マティス、ありがとう。緊張はしているけれど、とても充実した気持ちだわ。ちゃんと、国民の皆様に認めてもらえると良いのだけど……」


「大丈夫よ。クレマンス」


「マティルドゥ様!」


「貴女とマティスの子が出来れば、国民はどんなに喜ぶか……。それを、想像するだけで、私はそれがこの国の栄光に繋がると信じています」


「はい。マティルドゥ様……。そのお言葉だけで、わたくしは頑張ってゆけます」





そうして、式典が始まった。クレマンスの心配をよそに、王国の民の皆々は、その美貌と、この王国で、たった一人の、「ペルフェット・ドクトラ」である、リュカも認めた、と言う魔法使いとして、すっかり愛されていた。


「クレマンス様! どうか、素晴らしいお子様を!!」


「クレマンス様! 私たちは貴女を歓迎いたします!」


「マティス様! どうか、クレマンス様とお幸せに!」


国民は、次々祝いの言葉を放った。




――……その時だった。



「クレマンス……と言ったな……」


低く、おどろおどろしい声が国民の歓声をかき消した。それに、一早く気が付いたのは、リュカだった。


「! マティルドゥ様! 今すぐクレマンスを連れて宮殿内に!!」


そう指示したが、もはや、遅かった。


「『ディッシィンディンティ・アニエンタメント』!!」


「キャ―――――――――――――ッ!!!!」


「「クレマンス!!」」


マティルドゥと、マティスが、絶叫と共に、その場に倒れ込んだクレマンスに駆け寄り、体を抱き起した。しかし、特段、傷や、怪我は見当たらない。しかし――……、




「クッ!!! 『エコールチッチオーネ・イスティンチオーネ』!!」


マティルドゥとマティスがクレマンスを心配している最中、リュカだけは、その状況を、理解し、とてつもなく使われた事に気付いていた。そのリュカの魔法で、その何者かもわからない男が、悲鳴をあげた。こんな言葉を残しながら……。


「ぐあぁああ!! ……っ!! ふ……ふふふ……わが命、ここで尽きる為にあったもの。この国は……もうおしまいだ……はははは!!!…………っ」


そいう言い終えると、リュカの魔法により、その男は死んだ。


「リュカ! 一体、今のは何なのです!? まさか、何かの魔法なのですか!?」


マティルドゥが、リュカに真っ青な顔で問いただした。しかし、リュカは、険しい顔をして、返事をしようとしない。


「リュカ!! どうなんだ!」


マティスも、未だ目覚めないクレマンスを抱きかかえ、リュカに答えを求めた。


「……大変……申し上げにくい、魔法でございます……」


「な、何の魔法だ!?」


「まずは、申しておきます。この魔法を解く魔法はこの国には伝わっておりません。私でも、解く事は、不可能です」


「だから! 一体どんな魔法なのだ!?」


「……『子孫消滅』の魔法……です」


「「!!」」


こうして、王国に、新しい純粋な血を受け継ぐ国王は、この先、マティスがいなくなれば、もう存在する事はなくなったのである……。

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