Day30 握手

 大学の学食で、いきなり握手しようと声をかけられたときは驚いたけれど、問答無用で手を握られて『よし、これで今からあたしらは友だちだ』といわれたときは、驚きを通り越して思考が停止してしまった。


 なんでも、そのときの私は『今にも死にそうに見えた』らしい。

 心あたりは、だいぶあった。

 当時の私は、彼氏に浮気された上、ひとり暮らしの部屋に空き巣が入って、あっちもこっちもボロボロ、まさに踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂といった状況だったから。

 空き巣に入られたからといってすぐに引っ越せるようなお金もなく、彼氏とも別れたばかり。いくら心細くても頼れる友だちなんていなかったし、実家も気軽に帰れる距離じゃない。

 子どものころから女子グループ特有の、つくろったような空気が苦手で、友だちのひとりもつくらずにきたツケとでもいおうか。とにかくないない尽くしで途方に暮れていたのだ。

 だから、かなり強引に『友だち』だとつきまとうようになった彼女の存在に、じつはけっこう救われていたような気がする。


 あれから、なんだかんだで二十年。

 押しかけ友だちとでも呼ぼうか、だしぬけな握手からはじまった友人関係は今もつづいている。

 私の、一番の親友だ。


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