Day25 報酬

 この世界には今日を生きるために、身体を売り、心を売り、魂を売る人間がいる。

 命をつなぐために、命を切り売りするしかない人間がいる。

 そのなかには幼い子どもも、誰からも大切にされたことがない若者もいる。


 彼らに自分を大切にしろとか、安売りするなとかいえるのは、いつだって安全圏にいる恵まれた人間だ。ぼくもそうだ。

 だから、キレイごとだといわれれば、まったくそのとおりなのだけど。それでもぼくは、そのキレイごとを捨てたくないし、捨ててはいけないと思っている。


 ぼくは見ず知らずの、赤の他人を助けたいと思うほどできた人間ではないけれど、目のまえにいる人間にくらい手を差しのべられる男でいたいとは思っている。それもキレイごとだといわれたら、やっぱりそのとおりなのだけど。やらない善よりやる偽善ていうだろう?

 それに、無償の奉仕ってわけでもないしね。報酬ならもうもらっているから。

 キレイごとをいえる人生——っていったらさすがにクサいか。まあつまり、ぼくも以前は切り売りする側の人間だったってことだよ。


 だけど、ぼくは運にめぐまれた。キレイごとが大好きな人間から、自分を大切にできる環境をもらえたんだ。

 そのとき、思ったんだよ。ぼくもキレイごとを捨てずに生きていこうって。

 だから、頼む。

 どうかぼくの手をとって。

 ぼくのキレイごとを叶えさせてくれ。


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