#025 第一美術部
「はぁ~ぃ、それじゃあ第二美術部の皆さん、今日はよろしくお願いしま~す」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
今日はなんと、第一美術部にお邪魔して、デッサンを教えてもらう事になった。まぁ、対象がイラスト勢に限定されるので、部長(動画勢)をはじめとする大半の部員はお休みなのだが。
「みなさ~ん、シャルル・ギャバンで~す! よろしくお願いしま~す!!」
「「おぉ~」」
沸き立つ第一の皆さん。ちなみに主犯と言うか、事の発端はもちろん師匠だ。間違っても第二美術部はここまで真面目では無いし、アクティブでもない。
「それじゃあ、まずはレベルにあった班に分かれてもらいます。それぞれ……。……」
第一美術部はほぼ女性で構成されており、活動も直筆絵画に実質限定されている。その活動内容は外部コンクールに作品を出品することで、つまりは彫刻やデジタルイラストは指導対象外。べつにやってはダメなんて決まりは無いはずだが、同調圧力と言うべきか、この雰囲気の中でまったく別の事をやるのは精神的にキツいし、そもそもそれなら所属する意味は無い。
「なるほどね。多久田君は、基本は分かっている感じだね」
「その、どうも」
だから何が『どうも』なんだ。部長ほどでは無いが、初対面の、それも女性に囲まれてとなると呂律すら定まらない。
それはともかくとして、僕はデジタルイラストを覚えるに際してネットで基本的な部分は大体調べて"知っている"。あくまで知識的なものなので穴はあるのだが…………そういうところを補えたらと、今回の企画に参加した。
「ん~、シャルちゃんの絵は個性的でイイと思うけど、まずは基本を覚えるところからかな~」
「やはりそうですよね。お願いします!」
「はい、お願いされました」
とは言うものの、師匠もそこまで本格的に直筆絵画を学ぶ気はない。あくまで、文化祭で発表するイラスト本を作るうえでの基礎と…………成り行き。いつものようにクラスでコミュ強ムーブをしていたら、いつのまにか"そういう流れ"になってしまったのだ。
「まずはこうやって、アタリをつけて全体のバランスをみたら、次は円柱を配置して、そこからこう……。……」
「…………」
成り行きとは言え、本格的に基礎を学んでおくのは良い事だと思う。それを自覚しているのか、さり気なく参加した妹さんの表情は真剣そのもの。やはり部長の言うとおり、絵に対する思いは大きいようだ。
「シャルちゃん。ここの影、もうすこし明るくしたほうが良いわね。ほら、よく見て。実際には机の反射光で……。……」
「たしかに、流石ですね!」
「いや、それほどでも~」
対する師匠は…………正直、あまり上手くは無いし、気が散ってばかりだが、相変わらずのコミュ強ムーブでモテモテだ。
「はぁ~ぃ、それじゃあちょっと休憩を挟んだら…………お待ちかねの、人物デッサンに移りましょうか」
「「おぉ!!」
「…………」
妙に沸きたつ第一の人たち。見れば師匠も、なにやら嫌らしい笑みを浮かべている。
「いや~、ホント、助かるわ」
「私たち、女所帯だから、どうしてもね~」
「「…………」」
なんだろう、この空気。すごく、嫌な予感がする。
「さあ多久田君たち。"これ"、使ってね」
「これって……」
「もちろん、脱いだ服を入れておく"籠"だよ」
「もしもし、ギャバンさん」
「ひゅ~、ふゅひゅ~」
「いや、吹けてないから」
わざとらしい口笛と共に視線をそらす師匠。どうやらモデルは、僕たち男性陣だったようだ。
「えっと、僕……」
「多久田先輩!!」
「はい?」
妹さんに、はじめて名前(苗字だけど)を呼ばれた。普段は『雰囲気で察してください』って感じなのに。
「上半身だけでもいいので、ここは黙って脱いでください。これは、勉強の一環であり、芸術なんです!!」
「あぁ、うん。まぁ、別にいいんだけど」
若干、邪な波動を感じるけど…………そこは男なので、上半身くらいなら気にならない。たぶん。それよりも問題なのはギラついた女性陣の視線であり、とても断れそうな空気ではない。
「ちょっと、腕をあげてもらえる?」
「あ、こうですか」
「そう。でゅふっ(腋毛、まだ、生えてないんだ)」
「もうすこし、背をそらせてもらえる。ほら、ブリッジする感じで」
「こ、こうですか?」
「ぐへへ、そう、ありがとう(うひょひょ、鼠径部たまらん)」
さっきから、ブツブツと漏れ聞こえる独り言が絶妙に気持ち悪い。
つか! 普通逆じゃない!? 本音を言えば、合法的に師匠を凝視して、リアル美少女のデッサンが出来るものだと思っていた。まぁ、頼めばいつでもさせてくれそうな気もするが…………それが頼めたら、苦労は無い。
「その、靴下を、脱いでもらえる?」
「ちょっとまって! ソックスは履いたままでしょ!!」
「何を言っているの? 裸足のエロさが!!」
「 ……! ……!!?」
なんだか癖論争が始まってしまった。第一美術部は基本的に真面目で、学校側からの評価も良いのだが…………村社会と言うか、類友を集めてじっくりコトコト煮込んだ感じになっているようだ。
そんなこんなで僕は『二度と第一美術部にはかかわらない』と…………口には出せなかったので、心の中で秘かに誓った。
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