#022 副収入

「……だから、やっぱりここは……」

「……ますが、そこは……。……??」


 今度は僕が遅れて部室に来ると、教室の隅で委員長と妹さんが熱い議論を交わしている姿が目に付いた。白熱はしているがトラブルっぽい様子もなさそうだし…………何を話しているのだろう? 意外な組み合わせと言う事もあり、少し気になってしまう。


「ジュン、待ってました。ここなんですけど……」

「あぁ、うん」


 しかしながら僕の思考は、師匠のノートパソコンへと向けられる。


 結局、部長のノートパソコンは師匠のもとへと嫁いでいった。Webカメラやマイクなどの最低限の機能が揃っているノートは、たしかにあって困らないと思うが…………タブレットとカブる部分もあるし、分担作業を考えるとやはりある程度高度な作業ができるパソコンを持ってほしかったと思ってしまう。


「こんなところかな?」

「やっぱり、たっ君がいると助かるよ。一家に一台だね」

「そうですね。ぜひ、私のウチにも!」

「え、あぁ、うん」


 何が『うん』なんだ? こういうトークを上手くかえせるイケメンに、生まれていたらと思ってしまう。


 ちなみに今は、クラウドサービスの設定と、各種編集ソフトのインストールや使い方を覚えるべく頑張っている。もちろんノートなので限界はあるが、部長のパソコンは部室には持ち込めないので部室での作業はノートでおこなう事になる。


「しかし凄いね。ここで作ったものが、メンバー間で自由に共有できちゃうんだから」

「誰も欲しがらないとは思いますが、パスワードの管理は気をつけてくださいね。イタズラとか、されないとも言い切れないので」

「それよりも、間違って消しちゃわないかの方が怖いよ」


 あまり考えたくはないが、学生間だと間違えや悪戯で、大切な共有データが破損してしまう可能性は捨てきれない。もちろんバックアップはとるつもりだが、そこは個人なので"完璧"とはいかないだろう。


「気をつけていても、いつかはやっちゃうものですが…………バックアップは、とる癖をつけてくださいね。誤操作以外にも、パーツが壊れてしまうってパターンもありますし」

「それは…………うん、早めになんとかします」


 中古パソコンの怖いところは耐久面であり、過信は禁物であることは部長にも注意してある。しかしながらそこは中学生。簡単に交換パーツを用意する事は出来ないので、出来る範囲で騙し騙しいくしかない。


「私たちも、ジュンのように収入があると良かったんですけど」

「いっそ、動画投稿でもしちゃう?」

「禁止、されていますけどね」

「もちろん、冗談だよ。冗談……」


 視線を逸らす部長。校則に直接明記されているわけではないが、保護者会の意向もあって我が校では『SNSにおける顔出しなどの個人情報の公開』が指導対象となっている。そんなことは"当たり前"なのだが…………それでも自分の行動に対して極端に判断が甘くなる者や、何かたまたま上手くいきやめ時を見失う者は、どうしても出てきてしまう。


 まぁ、隠れてやっている人は多いみたいだけど…………僕はそこまで楽観主義ではないし、情報弱者バカでもない。そしてそれが、部の活動ならなおさら破るわけにはいかない。


「ですが、顔とか出さなければいいんですよね? ジュンもそうですが、何か作ったものを発表するだけなら」

「まぁ、そうなんだけど」


 そもそも部長の映像作品も、個人的な最終目標は"動画投稿"であり、ようするに『ストリーマーになって生計をたてる』ところにある。まぁ部長の場合は性格もあって顔出しはしないだろうが、『何かを投稿して、その苦労に対してどのくらいの見返りがあるのか』を知っておくのも良いかもしれない。


「ちなみに、安全に稼げるのって、たとえば何があるの?」

「おぉ、ミサオも援護してくれますか!」


 委員長も合流して、本格的に逃げ場が無くなってしまった。いや、逃げるとか口説き落とすとか、そういう話ではないのだが…………今の僕の心情は、当たらずとも遠からずなわけで。


「えっと、代表的なところでいくと……」




 こうして僕は、作品投稿で収入を得る方法を解説する事となった。

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