#021 思春期の葛藤

「ちょっと、トイレに行ってくるね」

「あぁ、それじゃあ私は(フリードリンクの)おかわりを……」

「あっ、私も!」


 インターネット喫茶での会議はひとまず終わり、退店前の調整に動き出す面々。


「あぁ、大丈夫だと思うけど、一応、誰か席にいてほしいかな」

「おぉ、そうですね。それでは私が残ります!」

「シャル、悪いけどお願い」

「はぁ~ぃ」


 ほとんどが中古品とは言え、それなりに高価で目立つものを持ち込んでいるので自衛するにこしたことはない。


「これから機材コレを持ち帰ってセッティングしなきゃと考えると、少しオックウですね。ジュンが、家までついてきて…………ん、これは??」


 溶け残った氷水を啜るシャルル。その目に、純一の空いた鞄の中身がとまる。それは小さな部品でも入っていそうな紙袋で、しかしながらコレまでの話題には一切あがらなかった。


「もしかして、(説明)忘れものでしょうか」


 封が切れていた事もあり、シャルルは紙袋を軽い気持ちで開けてしまう。


「おぉ、これは! グフフッ。ジュンも、なんだかんだ言ってそういう展開を期待していたのですね。まったく、誠実(シャイ)なのも考え物ですね。そういう所も、可愛いと思いますが」


 その後、シャルルは終始、嫌らしい笑みを浮かべていた。





「はぁ~、せっかく(エロ)ゲームができる環境が整ってきたのに、これじゃあとても買っていられないよ~」

「情報収集と創作活動の両立は、永遠の悩みですね」

「いや、お金が無いって話だけどね~」

「「…………」」


 パソコンの交換も終わり、予定通り中古パソコンを手にした部長と、部室で他愛のない会話を交わす。他のメンバーは日直の仕事で遅れるので、こうして部長と話すのは久しぶりだ。


「ま、まぁ、動画編集単体だとフリーソフトで何とかなりますからね。カメラとか、プロ向けの編集ソフトに手を出すまでは」


 カメラが高価なのは想像しやすいと思うが、それとは別に『ソフトの利用料』ってのがバカに出来ない。これらのプロ向けソフトは月額料金になっている場合が多く、あれもこれもとなれば1年で1台スマホが買えるくらいの料金がかかってしまう。これらのソフトには学割制度もあるのだが、それでも中学生の財布事情で維持するのは現実的ではない。


「はぁ~。考えたら憂鬱になってきたよ。好きだし、興味はあるんだけど、やっぱり部の出し物だと思うと、気負っちゃうし」

「趣味と割り切って、マイペースにってわけにも、いきませんからね」

「だよね~」


 具体的に何をするかは決まっていないが、第二美術部のメインの出し物は『部長が指揮する映像作品』と『僕が指揮する(簡単な)イラスト漫画』になる。これらに具体的な合格ラインは設定されていないので、あるていど手を抜いても問題ないのだが…………やはりそれでも、やるからには良いものを残したい気持ちはある。


「お疲れ様です。その、他の人は?」

「あ、神楽、おつかれ~。皆は日直だってさ~」

「その、おつかれ様」

「どうも」


 遅れてやってきた妹さんと、またしても微妙な空気になってしまう。部長はいろいろあって打ち解けているが、どうにも僕は『基本的に女性から敬遠される』タイプなのだ。


「そういえば、いも、神楽さんや、他の1年の人たちって、何をするか、決まったんでしょうか?」

「どうなんだろ? 決まったの??」

「それは…………まぁ、個人的に、何か用意するつもりです」


 第二美術部は帰宅部が多い事もあり個人主義・個人作品形式で乗り越えるものが多い。しかしながら妹さんは社交的で、だから合同作品で来ると思っていたので意外だ。


 そういえば友達は多いみたいだけど、部の仲間とプライベートまで共有しているとかは聞いていない。これはクラスメイトとの交流を重視してって事なのだろう。あるいは……。


「その、答えにくかったらスルーしてほしいんだけど、もしかして入部した理由って……」

「「…………」」

「????」


 2人の視線が部長に集まる。もちろんある程度理解していたが、やはり妹さんは部長のフォローで入部しただけ。第二美術部の活動や、その仲間との交流はオマケ扱いのようだ。


 もちろん、最低限の活動さえしてくれれば大丈夫なのだが…………その調子では次の次の部長は『別の誰か』になるのだろう。


「よく分からないけど、神楽…………どうせ、絵を描くんでしょ?」

「わぁ! 違う違う、絵なんて、描かないから!!」

「「…………」」


 オーバーリアクションで否定する妹さん。活動には無関心だと思ったら、どうやらそうでもないようだ。しかしながら思春期と言うべきか、そういう趣味を"恥ずかしい"と思ってしまう気持ちが先行しているようだ。


「まぁ、気負う必要はないから。同士を見つけて、無理のない範囲で頑張れば良いんじゃないかな? やっていくうちに(恥ずかしいのは)気にならなくなるものだよ」

「だから、私は、そんなつもりは……」




 やはり次次期部長は、妹さんになるかも…………と僕は思った。

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