番外編 偽りの救い

「僕は、魔物だから。死なないなら、死ぬまで殺す」



「魔物なんて関係ないわ。辛いのなら、誰でも許されていいはずよ。」



何故....ここまで、寄り添うのだろうか...



「僕は....」


「私は...いいえ、私たちは貴方を救ってあげる」



そこで、チャシャの体に歪む。


まるで、そこにはなにもいなかったように、消えてしまう。


そうして変わりに、大人数の老若男女様々な冒険者が、僕の前の目の前に現れる。



「あなたは、ずっとずっと孤独だった。そうでしょう?」



奥から、チシャが歩き出して僕を見つめる。

彼女の瞳の奥に、くたびれた姿のドラゴンが映る。



僕は、救われるのだろうか...



チシャが、ゆっくりと腕を振り上げる。


敵を見つめるような形相で、冒険者たちが睨みつけてくる。


ふと、気づく僕が出したブレスによって、何人かのものが倒れていた。


あらかじめ、軌道を逸らされていたようだ。


「もう我慢ならねぇっ!!死ねぇえ!!ファイアー・アロー」


一人の人が、攻撃してくる。


「あ、ま、まだっ!!」


僕は、あえて当てられるように腰を下ろす。小さなファイアーアローを食らう。が、あまり効果はない。


ドラゴンになった今、あまり攻撃が効かなくなってしまったようだ。





その後も、僕が攻撃をしないと悟ったのか、攻撃の雨が僕へと注いだ。が、一向に僕を殺すに値するモノは届かない。


鱗が少しだけ焦げ付いているが..なにも感じない。



「はぁはぁ....こいつ...どんだけ硬ぇんだよ」



僕は、そろそろどうでも良くなり始めた。

のっそりと体を起き上がらせる。



「結局....誰も、殺すことができなかったんだな....」


「ひ、ひぃ....これが....ドラゴン....」



「もういいです!!やはり、私がこの方を殺します。」


「チシャ....」



冒険者たちが、絶望の表情へと変えるなか、チシャが歩みだす。



「僕は、殺せない。君のおかしな攻撃も届かなかった。なら、僕を殺せるわけないじゃないか」


「私は、空間魔法の使い手です。少し時間がかかりますが....あなたは、救われたいのですよね?」


「......はい」



僕だけじゃない。

他の冒険者たちもそれを願っている。

僕は、あの子を助けるために、殺しすぎた。


レッドドラゴンへの復讐?俺が、それ以上の存在になってはアイツと対して変わらないじゃないかっ!!


これ以上.....もう、人を、動物を....殺したくない....



『世界は一つへと繋がっている。無数の時が私たちを覆っている。その声が、形が一つの道へとなる。私はそれを断ち切るもの。寂しげな声に耳を傾け、その地上に堕ちる災いを払うのは空間への干渉.....果てなき時は、この一撃をもって潰える.....』



チシャは目を瞑り詠唱を唱える。


彼女を、中心に急激な魔力の高まりを感じる。そして、青い色のオーラの周りをキラキラと輝く。




詠唱を唱え終わると、そっと目を開けた。


「詠唱が完了しました」


「そうですか....」


「最後に言い残したことは、ありますか?」



最後に....




最後.....




「僕は、かなり前に少女を好きだったんです。ずっとずっと...その思いが胸を焦がしています。僕は....彼女にあったら、上手く顔向けすることが出来ないです。僕は、罪を犯しすぎてしまった。」


「.......私が、その全ての罪を許します」


怪しい風体の女が、聖女のように見えた。僕の罪を全て葬り去ってくれるのか...






『ディメンション・スラッシュ』





魔法が放たれる。


僕は、その光の本流に飲まれる.....



「あぁ.....やっと....彼女に会える」




涙が、頬を伝う....




ずっとずっと....思い続けていました。






彼の思念が、私へと伝わってくる。

空間に干渉した時に、たまに消した相手の記憶が流れ込んでくる。世界が、それを刻み付けろとでもいうように....


女の子が、消えてしまったこと、ずっと友達を作ろうとしたこと、魔物へとなろうとしたこと....



「なんて....なんて....救われない人なんですか.....」



私は、気づけば涙を流していた。


私の魔法は、彼のことを救うことが、できたのだろうか?

彼は、あの世で彼女と会うことができたのだろうか?



「......私は、分からないわ。でも....私の魔法で、彼の気が楽になったのなら...良かった」


「チシャ様っ!!ありがとうございます」



この方たちは、彼のことを知らない。自分の子供が、彼氏・彼女が....様々な経緯があったのでしょう。



「いいえ....彼を、救うべきだと思ったので」


「せ....聖女様だ....」


「聖女様っ!!」


「聖女様っ!!」



この人たちは、なにもしらない。彼のことを....



「私に、聖女なんて言葉は似合いわ。私は...ただの魔女よ。」



どうか安らかに....




END4 スライムくんが とある魔女に救われる物語

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