実際のところ

 完全自動運転の車に乗って、フロリアーヌと一緒に学校へ移動するボクは、窓から見える景色に終始絶句していた。


「あんたさ。わたしがいなかったら、ヤバかったんだよ」

「……へえ」

「ウチの防犯カメラ銃付いてんだから。スイッチ入れてる状態では、無断で出たら駄目だっての」

「何で銃がついてるんですか? 銃刀法はどうなっちゃったんですか?」


 なるほど。

 あのまま、家から出たら、ボクは今頃この世にいなかったわけだ。


「ま、あんたが逃げ出したところで、すぐに分かるけどね」

「……どういうこと?」

「それ」


 自分の首を指し、フロリアーヌが教えてくれる。


「発信器ついてるから」

「ふう」


 本当にこの世界って、男に人権ないな。


「でも、いいの? 学校にボクを連れてって」

「奴隷を持ってんのがステータスだもん」


 そんなアクセサリーみたいな感覚で。


 さっきから町を行く人々は、疎らだけど、奴隷を連れて歩く人が目立つ。首にはリードをつけて、どこからともなく取り出した鞭で、体中を叩いていたり、疲れたら椅子にさせたり、とことん男は社会的に弱いことが表れていた。


「街並みはヨーロッパが混ざり合った感じなのにな」


 完全に都市部っていうより、田舎が入ってる感じか。

 見慣れない卵型の建築物がいくつもあり、道路の中には鉄格子とガラス板を合わせたものがハメられていて、下には綺麗な川が流れていた。


 ボクの住んでいた世界とは大違い。

 川は澄んで、離れた場所からでも透けているのが分かる。


 川の中や建築物の間には、木が生えていたり、全体的に緑が多かった。

 なのに、発展を遂げた技術の塊が、そこらかしこにあり、人々は円滑な生活を営んでいる。


「ねえ」

「なによ」

「ボク、帰りたいんだけど」

「無理」

「だってさぁ。ゲームとか、アニメとか。そういうのないじゃん」

「あんた、そういうの好きなの?」


 ぶっちゃけ、空想はボクにとって、桃源郷そのものだ。

 あの場所に行けるなら、ボクは死んでもいいとすら思える。


「んー、ゲームならあるんだけど」

「どういうの?」

「うん。男の人をどれだけたくさん殴れるか、っていうゲーム」

「人権って知ってる?」


 いや、この世界には、そういうのないんだろうけど。

 思わず、口から出てしまった。


「良い子にしてたら褒美あげるから。大人しくしてなさいよね」


 まあ、一つ言えるのは、他の奴隷よりはずいぶんマシな待遇を受けている、ってことか。

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