第18話 第4回妻女山の戦い(繁信16才)

空想時代小説 


 宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。


 藩士50人と村役人10人、そして繁信の配下(幻次郎・三井知矩・円寿坊・左衛門ら7名の元山賊)の70人で攻撃隊が構成された。知矩は繁信の配下を見て、

「真田10勇士ではなく、真田10人衆ですな」

と繁信に話していた。繁信は、

「なぜ10勇士ではないのだ?」

「それは私のような未熟者もいるからです」

「自覚はしているのだな」

と繁信は笑いながら答えた。

 隊は、10人ごとの小隊に分けられた。10人の内、先の3人は竹竿の先に石をくくりつけたものを持っている。これで、進む先をたたいて歩くのである。以前、落とし穴に悩まされたので、それを見つけるための道具だった。いわば地雷探知機である。次の3人は、畳半分ほどの板を持っている。相手の弓矢や石つぶての攻撃をふせぐためである。後ろの3人は弓矢を持参している。近距離用の弓矢で、中には2本同時に打てる弓を持っている者もいた。組頭(小隊長)は、種子島を持っている。ただ、山岳戦ではあまり役に立たないので、万が一の場合に持っているだけと言ってもよかった。守る方は、種子島は有効だが、攻める方は弾込めの時間もあり、不利なのだ。

 繁信の隊は、正規部隊ではないので、武器はそれぞれだった。繁信は種子島に慣れていないので、短槍を持って参加した。

 左衛門たちが造った地図で、各隊の目標を設定した。妻女山には5つの小屋があることが分かっている。中央の大きな建物には首領とその取り巻きがいるということで、そこには3つの小隊がかかることになった。真田の頭領は村上和之進である。繁信の隊は、もっとも高い小屋をねらうことになった。

 月明かりがあるうちに、小屋の近くに行くことができた。途中、繁信の隊は二つの落とし穴を見つけ、三つのしかけを見破った。これは左衛門たちが道案内をしてくれたおかげだった。夜が明け、中央の小屋近くで種子島の音がした。

「火をかけよ!」

繁信の声で、一斉に火がついた棒が小屋に投げつけられた。小屋から最初に出てきたのは、女たちだった。女の着物を着て出てくる山賊もいるので、入り口近くにいた者は目をこらしている。女を盾にして出てくる者もいた。ふんどし一丁で出てきた山賊もいた。出てきた山賊は、追い立てられたり、弓矢でやられた。しばらくして、山賊が出てこなくなったので、左衛門の配下が小屋に入ろうとすると、突然、「バーン!」という音とともに、後ろ向きに倒れた。

「種子島だ!」

と、声とともに繁信らは岩や木の陰に隠れた。小屋が崩れ落ちる前に二人の山賊が出ていって、中央の小屋の方へ逃げていった。

 繁信らは、その山賊どもを追って、中央の小屋の方へ向かった。


 そこは、修羅場と化していた。多くの者が倒れている。その中には、藩士も相当数いる。どちらが有利という状況ではなかったが、他の小屋から集まってきた山賊どもが一丸となって戦っていた。真田側の応援部隊の方が遅かったのだ。村上和之進は、「首領をねらえ!」

と叫んでいるが、弓隊はすでに矢が尽きたようだ。そこに、繁信らが到着して、藩士側は意気揚々となった。藩士側にいる左衛門たちの姿を見て、

「やはり松代藩の回し者だったか! 野郎ども裏切り者をやっつけろ!」

という声で、数人の山賊どもが繁信の隊に向かってきた。繁信は、短槍を器用に振り回し、山賊どもを近づけなかった。そこに幻次郎の一文字手裏剣がとんでくる。致命傷にはならないが、刀を振ることはできなくなる。次第に、山賊どもを追いつめていった。

 山賊の首領は、村上和之進と向かい合っている。他の山賊どもは傷を負っているか逃げ出している。

 村上と山賊の首領が何度か撃ちあった後、二人とも息が切れてきていた。村上が、上段から撃ちおろした瞬間、山賊の首領は、下段から地面の土をすくい上げ、村上の顔に土をかけた。村上が一瞬ひるんだ時に、山賊の首領は村上の足を斬った。村上は崩れ落ちた。繁信は、

「危ない!」

と叫んだ瞬間、短槍を二人の間に投げ込んだ。村上は、転げてそこから抜けた。山賊の首領が繁信に近寄ってくる。そこに幻次郎がはなった手裏剣がとんできた。が、山賊の首領は刀をたててそれを避けた。

 恐ろしい形相で、繁信に刀を撃ちおろしてきた。繁信は、ひらりと攻撃をかわし、近くの切り株に飛び移った。そこに、山賊の首領の二の太刀がやってきた。足をねらっての払い技だ。そこで、繁信はここぞとばかりにとび上がり、山賊の首領をねらった。山賊の首領は思いっきり刀を横に払ったので、体勢が崩れた。左腕で避けるのが精いっぱいだった。繁信が地面に降りた時には山賊の首領の左手首が地面に転がっていた。苦しんでいる山賊の首領に、三井知矩が投げた網がとんだ。網にからんだ山賊の首領を他の藩士が、槍や刀で突いた。とうとう妻女山の山賊を退治したのだ。藩士たちは、

「エイエイオー!」

と勝どきをあげた。


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