真田の郷 始末記

飛鳥 竜二

第1話 仙台藩騒動(繁信14才)

空想時代小説


 宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。


 片倉小十郎景長(3代目小十郎)が、仙台藩騒動で処罰を受けた原田甲斐の船岡城に乗り込み、血気にはやる原田家の面々に対し、

「ここで血気にはやり、柴田外記の館を襲ってどうなる! 原田家が処罰されるだけでなく、大老酒井忠清殿の屋敷の中での凶行ということで、仙台藩が改易されるのかもしれないのだ。お主らは、甲斐殿の自分だけの命だけで終えようという気持ちがわからんのか!」

その言葉に、原田家の家老が涙ながらに応えた。

「小十郎殿、我らは殿のご無念をはらしたいだけです。外記殿は命を取り留めたとのこと。けんか両成敗ではござらぬか。ウゥ・・・」

「知らぬのか。外記殿も手当の甲斐なく、亡くなったと先ほど知らせがあった。それに、お主らが恨むべきは、甲斐殿をここまで追いつめた一の関殿であろう。甲斐殿は、一の関殿の名代として、大老宅に赴き、斬られることを覚悟で刃傷沙汰にいたった。決死の覚悟ではなかったのではないのか!」

一の関殿とは、藩祖政宗公の末弟で、一の関藩10万石の領主である。兵五郎宗勝という。今回の争いは、宗勝の甥である登米氏と政宗の従弟である涌谷氏の間で領地争いが起きたのが発端である。原田甲斐は、仙台藩の奉行として藩主綱村(12才)の後見人である宗勝側に立っていた。原田甲斐に斬りつけられた柴田外記は涌谷氏の名代であるが、実際はその場に涌谷城の領主宗重も同席していた。後日談では、原田甲斐が宗重に襲いかかろうとし、それを止めようとした柴田外記と斬り合いになり、そこに駆け込んできた酒井大老の家来が、原田甲斐にとどめをさしたということだ。

 原田甲斐の凶行の理由は定かではないが、自分が奉行として裁定にかかわっているうちに、登米氏の横暴さが浮き彫りになり、その原因が後ろにいる一の関殿の意向というのがわかってきたからだ。一の関殿は、藩主を交代させ、仙台藩62万石の実権を自分がもつという野望をもっていることが分かったのだ。その上、一の関殿の後ろには、酒井大老がいるということもわかった。ここまでくると、大老の裁定は一の関殿の思い通りになり、仙台藩はとんでもない状態になりかねない。この上は、一の関殿側に立つ自分が凶行を犯せば、裁定は涌谷氏の勝ちとなる。そう考えた上での凶行と考えられた。

 この後、この度の裁定で藩主綱村は幼少のためお咎めなし。一の関藩主宗勝は隠居・閉門。原田家はお家断絶。男子は切腹となった。原田家の親族や家来の多くは、片倉小十郎が面倒を見た。

 片倉小十郎の小姓となっている繁信と、藩主綱村の使いとしてやってきた片倉辰信(ときのぶ・15才)は腹違いの兄弟である。元服して綱村の近習となっている。父は守信。あの大坂の陣で家康を追いつめた「日の本一の兵」といわれる真田信繁(幸村)の二男大八の長男である。母は2代目片倉小十郎の縁者であった。今は、幕府の追求の目があるので、真田の姓ではなく、片倉の姓を名乗っている。

 繁信(14才)は、兄辰信から1年遅れで元服を果たした。剣の腕は兄に勝り、時には小十郎から一本を取ることもある腕前であった。学問では辰信にはかなわないが、剣の腕がかわれ、小十郎の小姓となっている。母は真田屋敷に出入りしていた豪農の娘であった。真田屋敷は、小十郎がいる白石から北へ二里ほどのところにある矢附村にあった。西山という小高い山の麓にあり、繁信の母の実家は、その近くにあった。矢附村を束ねる庄屋格の家で、真田屋敷はその家からの篤志で成り立っているようなものであった。

 亡くなった父守信は、小十郎付きの家臣だったので、白石城下か仙台の片倉(真田)屋敷にいることが多かった。辰信の母は仙台の屋敷に居続けていた。矢附村の屋敷の中心は、繁信の母、お勝(おかつ)である。その母の元で、繁信はのびのびと育っていた。この物語は、その繁信の少年期からの話である。


 

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