ゆるいSF

雨のモノカキ

釣り上げたのは幼女だった男の話

『やあお父さん、私を釣り上げてくれてありがとう』


 宇宙の片隅にワームホールフィッシング趣味の男がいた。

 その日、男は、金色に輝く、幼女を釣り上げた。

 見た目六歳くらいの人間型ではあるが、油断できない。

 こういう知的生命体は総じて、相対する生命体をコピーして油断させ、食するのが常なのだ。


「残念だが、俺はお父さんにはなれない」

『どうして?』

「俺は童貞だからだ。相手もいないのに、子供はもうけられない」

『前時代的思考だねお父さん。もう二百世紀くらい昔だよ』

「二百世紀前で結構。さあ、ワームホールに帰りなさい」

『ひどいなー、お父さん……ねえ、本当に帰していいの?』

「……なに?」


 幼女はふらふらと男の前までクラゲのように近づいてきた。

 男は、ただじいっと、それを見つめ続けるだけだった。


『実は私は、とても希少なのです。売れば値段になるよ』

「俺の子供は売値を自慢するのか」

『あ、今認めましたね、お父さーん』

「ただの常識的思考を述べただけで、俺は認めてない」

『えー、じゃあ役所行きましょう。認知お願いします』

「子供なのにすごい攻め方してくるな、あと役所は最寄りでも二光年先にしかない、諦めてくれ」

『そんなー……』


 光り輝く、金色の、クラゲのような幼女は露骨にショックを受けていた。

 男はそんな光景にバツが悪そうな顔をして、一つため息をつきながら。


「……ちょっと寂しいな、って思いながら釣りをしていたんだ」

『――え』

「釣り師の噂でな、ワームホールに願いを込めながら釣りをすると、願った物が出てくるっていう噂がな、あってな。それが、まあ、お前だったんだろ」


 ぶっきらぼうに、男は告げる。

 その言葉に幼女は、露骨にうれしそうな顔をして、思いっきり抱き着きに行った。


『やっぱりお父さんだ!ありがとう私を釣り上げてくれて!』

「わー!やめろ!船が揺れる!姿勢制御用のスタビライザー剤も安くねえんだ!」


 怒鳴る男の言葉すら嬉しそうに幼女は抱きしめる力を強く、込めた。


 この日、奇妙な親子が生まれた。


 しかし広い宇宙では、そんなこと、日常茶飯事なので。


 大したことでもない、隅の出来事なのである。




 どっとはらい。

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