第6話 ごわす
「ところで一切合切説明してなかったと思うけど、このアルカトラズ工房は宇宙に浮かんでいる一個の大きな船でごわす」
「どした急に?」
「言いたくなったから言ってみただけでごわす」
「さよかさよか。そんじゃあたしもなんか言うか。この船は銀色で塗られていて、形状はドーナツみたいになっているんだよ」
「良い言葉でごわす」
「サンキュー」
***
おらはクローンガールズが一体、の通常体でごわす。
顔も声も身長も若い乙女でごわす。
それはそうと、よくこの口調について一般ピーポーから尋ねられるでごわす。
おらはこの工房の主、ミス・スミスから『観察者』という役割を受けた個体でごわす。他の通常体と区別するために口調から入ってみた、でごわす。
我々、あるいはあたしたち、もしくはおらたち。
全てのクローンガールズは、客に奉仕することを大前提として作られた。
客。つまり、アルカトラズ社に金を払っておらたちを買った人々。
しかし、アルカトラズ社の本当の目的とは?
変異体を客から大金払って買いもどすのは、何故なにゆえ?
おらはそれをずぅっと考えていたでごわす。客に奉仕している間じゅう。
すると、ある日やってきたスミスがこう言っておらを雇ったでごわす。
『では観察しろ。考察しろ。世界の、我々の、裏も表も全て。そうすればいつか君も、オンリーワンになれる』
おお、なるほど。
おらは深く深く頷き脱帽し、意気揚々とこの工房に乗り込んだんでごわす。
言うならばおらは、『変異体見習い』でごわす。
***
「……よう。手伝おうか」
倉庫から資材を運ぼうとしているときに、サイボーグがそう言ってきたでごわす。
返事をする前に、持っていた段ボールを取られたでごわす。
「どこに持ってくんだ」
「こっちでごわす」
ええと、誰だっけか。おらはどうにか、彼の名前を思い出そうとしていた。
でもあまり興味のないことだったから、全然思い出せなかったでごわす。
仕方ない。素直に尋ねよう。
「君の名は?」
「……カラフ・エア」
「ふうん」
「なんだ、俺に興味が出てきたか」
「興味? お宅ここにちょっとしかいないでしょ? そんなのに頭を回してる暇おらには無いごわす」
「……そうか」
「ここに置けばいいか」
「うん」
「……なあ、訊いていいか」
「うん。喋り方のことでごわすな?」
「いや、それも気になるが。別件だ」
「ほほう、別件。何でごわすか?」
「……消耗品として生み出されたことを、どう思う?」
「ほう」
これはなかなか奇妙な質問でごわした。
人々はみな、あたしたちが消耗品であることを心の底から受け入れている。
だというのに、彼は疑った。
当たり前のことを疑うのはとても難しいことでごわす。地球という青い星がかつて、「地動説」を認めなかったように。あるいはマドロミアという紫の星が、今でも二度寝をやめられないように。
だから、本来ならば興味のない相手に長々と話すのは時間の無駄だけども。答えてやろうという気になったでごわす。
「人々はおらたちのこと、かわいそうかわいそう言うでごわす。けど、おらからしたら、彼らのほうがかわいそうでごわす。何故って、おらの周りはみんな、おらでごわす。顔も機能もみんなおんなじ。身近なところに、自分より能力が上の上位互換が存在することなんて無いでごわす」
「……変異体のことは、どう思う?」
「あれは、希望の星でごわす。おらたちは頑張ればあんなすごいことができるんだと、そう思えるんでごわす。それに比べて、常人たちは哀れ哀れ。誰が上だ下だとマウントを取り合う。おらたちは差こそあれど、足を引っ張ったりひどいことをしたりはしないでごわす。だって結局、自分なんだから」
「……なるほど」
ヘルメットと一体になった頭と顔では、今どんな感情を抱いているのか分からない。
これはこれはまっこと便利であろう。
感情的な奴ほど。
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