第1話 宿屋

 ▷カランカラン。俺が宿屋の扉を開くと、甲高いドアベルの音が鳴った。

 ▷宿屋のカウンターの中には、一人の少女が立っている。彼女はこちらに笑顔を向けた。


 やぁようこそ、こんな安っぽいホテル〈ライト・ディライト〉へ!

 そこに置かれてるソファは穴空いてるし、便所はほとんど壊れてるのばっかりの、底辺の中の底辺! あたしが知る中で一番止まりたくないトコよ。お客さんなんでここ選んだの?


 ▷ずいぶん不躾な挨拶だった。俺は呆然として、しばらく立ち止まる。彼女はそれに笑う。


 ……うふふ、はいはいごめんごめん。チェックインでしょ。予約してます? 

 ……ええ、確かに。十八時にカラフ・エア様。

 さ、お部屋にご案内しやしょ。


 ▷俺と彼女は二階に上がる。階段を一段上がる度にミシミシと今にも壊れそうな音がした。確かに、安そうな場所だった。


 ふふふ。お兄さん噂通り無口な人だね。頷くしかしないなんて。

 貴方のこと知ってるよ。孤高の賞金稼ぎ、全身サイボーグ、カラフ・エア。

 顔がディスプレイになってんね。初めて見た。それとも都会じゃ当たり前なのかな?

 あたしのこと知ってる? そう、我らクローンガールズ。本当はもう二、三人入れたかったらしいんだけど、資金不足でね。あたし一人だけ。

 マスターが喜んでたぜー。『チョ~有名人がウチにやってきた!』ってさ。

 辺境の星の寂れたホテルなんて、ガス欠の客しかこないから暇なのよ。

 だからたんまりお金落としてってよ〜。あははは、冗談冗談。ここらへん何にもないし。


 はい、ここが貴方のお部屋。

 一応頑張っていい感じにしといたから、他の部屋よりふかふかのベッドだよ!


 今日はこのままおやすみで?

 はい承知。

 用事があったら備え付けの電話でね。


 そんじゃあ、お休みなさい。


 ▷バタン、と扉が閉められる。

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