第4話 夫、帰宅。

 2時になっても夫からの連絡がないので心配しつつも、2時半過ぎくらいにようやく玄関のほうがさわがしくなった。


「お帰り~。ちょ、あちこちさわるな、なるべくさわるな。荷物は持てる? 運べる?」

「運べる~……」


 やっぱり顔がちょっと赤くてしんどそうな夫、ひとまず持って行ったリュックサックふたつと、土産を入れたトートバッグとともに玄関から入って二階へ。

 あ、我が家は階段が家の中にあるタイプのアパートの、二階住みっす。玄関入って目の前が階段って感じの造りね。


「荷物はそこに一箇所にまとめて。全部消毒しておくから」

「うーん、冷房で冷えただけだと思うんだけど」

「ほかに発熱しているメンバーはいないの?」

「外国人従業員が三人ほど」


 いるじゃねぇか、発熱している奴!


「冷房病でそんな複数人が熱を出してたまるか。コロナだよコロナ。見事に罹ってきやがって。○子なんかめっちゃ怖がってるんだよ?」

「ははは、大丈夫だって、そんな簡単に死なないよ」

「あんたが死ぬことを怖がってるんじゃないよ。自分に移ることを怖がってんの。ほら、この新しいリュックを持って行け」


 家にあったわたし用のリュックには、持ち運び用の消毒液、除菌シート、濡れマスク、体温計、薬、ゼリー飲料なんかが入っている。それをひとまず押しつける。


「明日の朝には布団とか運んで、寝室を夫氏専用の隔離部屋にしておくから、すまんが、それまでは外で時間を潰してくれ」

「うい。行ってきまーす……」


 そうして帰ってきたばかりなのに5分も経たずリュックを押しつけられて家を出て行く夫。気の毒っちゃ気の毒だけど、社員旅行で四日ウェーイした挙げ句に発熱した奴に同情できるほど、わたしは広い心の持ち主ではない。


 とりあえず夫が出て行くと同時に消毒液で満タンのスプレーとダスター片手に、階段の手すりやドアノブやら必死に消毒して回る。


「さて、この荷物の山も消毒しなきゃいけないか……」


 四日ぶんの着替えやら、土産物やら。どうしたもんか……。


 ひとまず『コロナ 洗濯』で検索をかける。

 どうやら衣類は普通に洗剤で洗えば菌は落ちるらしく、感染していないひとの衣服と一緒に洗っちゃってもOKと出ていた。

 さすがに一緒は怖いから、夜が明けたら夫のぶんだけ先に洗おうと、ビニール手袋をつけてリュックから取り出した衣服をそのまま洗濯機にポイポイ。


 でもリュック自体を洗うのは難しいか……。ふたつあるうちの一つは夫が学生時代から使っていた奴で古いし、洗濯機にかけた途端にお亡くなりになりそう。

 ひとまず消毒液を中にも外にもこれでもかというほどシュッシュッシュッと拭きかけて、外干ししておくことに。

 リュックの中に入っていたイヤホン、モバイルバッテリー、眼鏡ケースみたいなものも全部シュッシュッシュッ……と消毒液を拭きかけ、拭き取り。


 お土産は箱物は消毒。ビニールに包まれているものも消毒。

 これどうしよう……と思ったのはぬいぐるみ。


「あぁん、ピンクの可愛いジンベイザメのぬいぐるみ。悪いがおまえも消毒液まみれにさせてもらうぜ……」


 まずトートバッグを消毒し、中に入っていたビニール袋を消毒し、その後取り出したぬいぐるみを消毒。濡れちゃったのでこいつもベランダに出して外干しに。なんかごめん。


「うーん、試食でもらったとおぼしきお菓子とか、駄菓子の詰め合わせみたいなのは消毒はできてもさわりたくはないな……」


 ひとまずできるだけ外袋を消毒し、ビニール袋に入れて放置。明日、隔離部屋を作るにあたって運び込んでおこう。


「ああ~、ダスターがすぐに濡れちゃって使い物にならん。ビニール手袋も汗でめっちゃ張りつく……。というかビニール手袋、在庫まだ保つよね?」


 ビニール手袋自体は毎年のようにやってくる胃腸炎に備えて常備してあったからいいけど、数が足りなくなりそう。

 それを捨てるビニール袋も必要だわ。キッチンパックみたいな小さい奴が欲しいな。

 そっちにビニール手袋とマスクは捨てて、口を縛ってさらにビニールに入れて捨てる……となると、やっぱりそれなりの数がいるわ。


 とにかく必要なものはすべて消毒して、お菓子系は冷蔵庫へ。

 なんか、消毒したのに、できればさわりたくないみたいな気持ちになる……。


「とりあえず、消毒は全部やったから、これで大丈夫だよね?」


 どこまで消毒すれば安全なのかがわからないのがつらい。

 とはいえ気づいたらもう3時も過ぎている。いいかげんに瞼が重い。とにかく寝よう。寝ないと基礎体力が保たない。免疫力が下がる。

 睡眠不足はいい仕事の敵なんだ……。

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