閑話 創造の使い手

僕はカードショップのフリープレイコーナーにて、神楽道さんと向き合っていた。


「この日が来たね……君を完膚なきまでに捻り潰す日が」

「うん……彼女から思っていた以上にえぐいことを言われた彼氏の気持ちはどうすればいいの?」

「笑えばいいと思うよ」


茶番は置いといて、今日は僕がカードゲームデビューする日だ。この日のためにルールを調べアニメを流し見し、デッキを揃えた。


プレイするのはもちろん、みんな知ってるよね! そう、『セレクトワールド』さ!


プレイヤーは神々の代理人として、神話戦争を行う。プレイヤー何者だよ! と思うけど、そこら辺は言明されていないので取り敢えず神々の上に居る全知全能みたいな存在にしとこうか。


まあ、神様たちを紙ベラ一枚で操れるんだし、大差ないだろう。


「初めてなんだから優しくしてよね!」

「初めてはちゃんと気持ちよく負かせてあげるね♪」


やべぇ。このアマ。手加減する気なんざねぇーぞ! これだからガチ勢は! 手を抜いてくれないとアマチュアとかが参戦出来ないでしょうが! まだ、僕がやったことないしょうが!


「『創造』バーサス『破滅』の戦いだ。アニメだと主人公と戦ったラスボスのテーマだな」

「ラスボス特有のなんでも有りのチートデッキと、諦めないこころが何故か新しいカードを創造しちゃったルール違反の主人公の一戦だよなぁ」

「どうせ私たちが使うのはナーフされているバージョンなんだから、あそこまでしなくてもいいわよね」


外野には、おさむんむんとアキラ50%、そしてミルク姫がおります。さっきから、僕が見てない部分のネタバレをしてきやがります。楽しみにしてたのに! カードを創造するってなに!?


ミルク姫の旦那さんが自分探しから帰ってきた (日帰り)ので、今日は赤ちゃんのりくきゅんはおりません。少し残念です。


「さあ、始めようか……闇の神戦を!」

「闇ってなんだよ。普通の神戦だろ!」


ふざけ倒す神楽道さんにツッコミを入れつつ、僕は手札を五枚用意する。


互いに準備が整い、宣言する。


「「神話戦争開始バトルウォースタート!」」


僕の創造のテーマは、とにかく神戦領域に使徒を増やし、司令カードに分類される神装を使徒に貸与することで、低めなステータスを強化して手数で押し切るのがテーマだ。


対して神楽道さんの破滅のテーマは、とにかく相手の使徒や司令を破壊しまくる極悪なテーマだ。使い手はさぞや性格が悪いに違いない。


僕は序盤、アニメの主人公が使っていた使徒の召喚チェーンを繋げて、本来なら1ターンに一人しか召喚出来ないところを、三人も召喚に成功。しかも、その一人に防御系の神装を貸与させることでどんな攻撃もこの使徒を通さないといけなくなる鉄壁ぷりだ。


「お堅いねぇ〜テンプレみた〜い……『破滅の御手カータスハンド』でその使徒さんをゲヘナに幽閉♪」

「おのれぇぇ!!」


司令カードを使って、僕の神装貸与使徒をゲヘナ……つまり墓地に追いやりやがった。


創造は使徒戦バトルにはめっぽう強いが効果には弱い。そこを突くかたちだ。


「と言うよりそのテーマ、明らかに『創造』メタだよね!?」

「そりゃあ、使ってたのロリっ子のラスボスだも〜ん♪」

「マジかよ!? 絶対見よ!」


もはや何を差し置いても、必ず最終回まで見ることが決まったぜ!


「当初の俺を見ているようだ」

「全くだね。俺はリアルタイムの次回予告でラスボスちゃんのビジュアル見て狂喜乱舞したよ」

「私は女の子が産まれてたら同じ名前にしようと思ってたんだけど……旦那に止められたわ」

「「旦那さんナイス!」」


どんなビジュアルでどんな名前なんだよ! 僕、気になります!


「ココミッチー!」

「なぁ〜にぃ?」

「僕が勝ったらラスボスちゃんのコスプレして!」

「ぜっっったいに、いやっ!」


クソっ! ダメだったかー。勢いに任せたらいけると思ったんだけどなぁ。神楽道さんって、押しに弱いからね。


「なら巫女の格好は!? 露出ほとんど無いやつ!」

「うぅ……なら、良いのかな?」

「よっしゃぁー! 絶対に勝つ!!」


僕はヤル気が核マックスになったぞ!


「うっわ〜それ詐欺師の手口じゃね?」

「正確には交渉術の一種だな」

「最初に無理難題ふっかけて、次に現実的なラインの提案をするやつよね」


外野! 神楽道さんに聞かれるだろ! ドン! 黙れ! 失せろ! ギロッ!


神楽道さんはその後、早速『破滅の修道女マリア』という使徒を僕の知らない方法で特殊召喚。


出た! この前習ったところだ!


「効果はなに?」

「攻撃してきた使徒さんと楽しくおしゃべり♪」

「嘘つけ! ……何だよこの効果」


攻撃してきた使徒をターゲットとして指定することでその攻撃分攻撃力が上がります? 毎ターン一度使えます? 自分のゲヘナに使徒が居た場合はその使徒を消滅させることで破壊を免れます?


「インフレにもほどがあるぞ!!」

「ふははっ……これが! ラスボスだぁ!」


神楽道さんは高笑いするけど、本当に酷い!


「ラスボスとか言ってるけど、アレアニメ未登場の新弾パックのカードなんだよなぁ」

「未登場というより、そのアニメが終わったからな」

「今の新作は少し迷走してるわよね」


どうやらアニメの新作は不評のご様子。僕は最新作まで見るつもりだったのに!


良く見たら神楽道さんのゲヘナに三人の使徒が幽閉されているし、恐らくそれが召喚コストなんだろう。


そのおかげか手札が一枚になっているぜ!


「司令をオーダーするよ! 『|破滅の輪廻(カータスカネーション)』! 効果はゲヘナの使徒を一人指定して消滅させることでデッキから二枚引くの! じゃあ、君の使徒さんを消滅デリート♪」

「こっちのゲヘナにも使えるのかよ!? 単一のカードの効果ってレベルじゃねぇーぞ!」


とにかく相手のカードを破壊することに特化しすぎだろ。しかもそれが自分のアドバンテージになるし。


「『破滅』の嫌がらせは一級品だが自分で攻めようとしたら貧弱だからな」

「そのせいでひと試合が長引くからイライラさせてくるよなぁ」

「はめマリ受けはその最先端よね」


外野の解説と、神楽道さんのスタンスで何となく分かった。


神楽道さんは『破滅の修道女マリア』以外の使徒は全部ゲヘナに送り、『破滅の修道女マリア』を不死身じみた強さにしているんだ。


攻めてライフを削らないといけないのに、攻める相手が『破滅の修道女マリア』だけだから、攻めるに攻められないから、時間が掛かるしイライラしてくる!


その後は、神楽道さんの嫌がらせを受けつつ、戦争は終盤に差し迫った。


「僕は神戦領域の使徒を二人デッキに戻すことで『救済の神子レイン』を召喚するよ!」


『創造』にだって新弾はあるんだ! それが『救済』と呼ばれるメシアシリーズだ。


「『救済の神子レイン』の効果をオーダー! それにより、『救済』と名前が付く使徒を手札から任意の枚数召喚する! 来て! 『救済の星騎士スーニャ』、『救済の星騎士ライオット』!」


『救済』を冠する三人の使徒が神戦領域に現れる。


「更に! 『救済の星騎士スーニャ』の効果をオーダーしデッキから『救済の星騎士』の名前を持つ使徒を一人召喚する! ……僕は『救済の星騎士ドロシー』を召喚! 『救済の星騎士ドロシー』の効果をオーダー! 相手盤面に居る使徒を一人指定し破壊する!」

「私は『破滅の修道女マリア』の効果をオーダー。ゲヘナの使徒を消滅させて破壊を無効!」

「まだだ! 『救済の星騎士ライオット』の効果をオーダー! 神戦領域に存在する『救済』の名前を持つ使徒一人につき攻撃回数を増加させる! 四人居るから四回攻撃だ! 更に! 『救済の神子レイン』の効果を更にオーダー! 『救済』の名前を持つ使徒を一人指定してそのターン破壊されず、受けるダメージを無効にする!」


長ぇーよ! 言う僕が疲れるわ!


でも、こうやって繋がるとすげぇー気持ちいい。これがソルティアと呼ばれる行為らしい。


「メシアシリーズって明らかに『破滅』の新弾に付録されている破滅教会シリーズに対抗する為のテーマだよなぁ」

「そうしないとゲームにならないからな」

「後で禁止カードにならないといいけど」


カードゲームあるあるらしい。


強いカードが出たぞ! 猛威を奮っているからメタカードを出すぞ! どっちも強すぎるから公式戦では禁止カードだ! みたいな。


僕の猛攻撃で神楽道さんのゲヘナの使徒は完全消滅。


「次のターンに僕が勝つ!」

「くくくっ……そういえば君は知らないんだよね?」


追い詰められているはずなのに彼女は不敵な笑みを浮かべて僕に質問する。


「な、なんだよ! ま、負け惜しみか!?」


僕の見事までの前ブリに神楽道さんはご満悦そうに、四枚のカードを取り出す。


「『世界構成ワールドコンポーズ』カード……デッキ外に置いておく四枚のカードの名称さ」

「な、んだと?」

「それぞれのテーマに使用条件が設けられていてね〜『破滅』の場合は、ゲヘナの使徒を十人消滅させることさ」

「なっ……! じゃあ、僕はまんまと罠にハマったというのか!?」

「ご明察」


ズルぞ! 僕の観てたアニメの範囲にそんなカード存在しないのに!


「少し前に追加された新要素だな」

「賛否両論になったやつだよなー」

「私は割と好きだね〜」


最近の追加要素らしい。ふざけんな!


「安心しなよ〜四枚ある中からランダムに一枚だけ発動するし、ゲーム中一度しか使えないから〜」


そう言って神楽道さんはシャッフルして僕の前に伏せたまま四枚置く。


「せっかくだから好きなの選びなよ〜」


ニヤニヤとしてくる神楽道さんに、少しだけイラッとして仕返しすることにした。


僕は神楽道さんを指さす。


「なら君を選ぼうかな?」

「……へっ? ば、ばっかじゃないの!? ばーか! あほぅ! そ、そういうのはまだ早いよっ」


真っ赤になりながらもじもじする神楽道さんに僕はちょっとだけ幸せになる。


「おい。アイツら試合中にイチャイチャしやがったぞ」

「砂糖菓子みたいなやり取りだな」

「若い頃を思い出すわね〜」


と誤魔化しても無駄だ。


僕は観念して一枚選び取る。


「こほん! ……えっと、『|破滅時計(カータスカウント)』ね。効果は六ターン後に私が勝ちマース」

「ふっざけんな!! 勝負になんねぇーだろうが!!」

「これでも大人しい効果なんだよー?」

「これでかよ!?」


セルフ封印されしじゃん! 勝手に封印されしのエクゾートフレイムじゃん!


「それまでに勝てば良かろうなのだー」

「ちくしょう! 勝ってやんよ! どんなハンデを抱えても! 勝ってやんよ!」

「まあ、せいぜい頑張りたまえ〜」


そして突破口が見つからずにターンだけが消費されていく。


「さあ、ラストターンだよ? 最後のカードを引たまえよ君ぃ」

「ぐっ……僕は諦めないぞ! 諦めないこころが勝利へのカードを創造するっ!!」


アニメ版の主人公の決めゼリフを言ってカードをドローする。


「|創造(クリエイト)ドロー!!」


勝利を手繰り寄せるだけの口上だと思ってたら、本当にラスボス戦でカードを創造しちゃったみたいだし、少し観るのが怖くなってきた。


僕は引いたカードを見て嗤った。


「くくくっ……くはははっ!」


僕の高笑いに外野がカードを覗き込む。


そして無言でスマホから神の降臨の時に流れるBGMを流し出す。


デッデレーデデデッデッデッデデッデレー!


僕も気分良く引いたカードを人差し指と中指で挟み顔の前に持ってくる。


「貴様に神を見せてやる!」


僕はノリノリでデッキに一枚しか入れられない神のカードを召喚……否、顕現させる。


「神戦領域の使徒五人を対価にし、神を顕現する! 現れよ! 『創造神竜アザトース』!」


決まったー! もうこれで勝つる! 神のカードはどれも勝負を一瞬で終わらせる極悪効果ばかりなのさ。


「メシアシリーズは出たばかりだから神のカードが出てないんだっけ?」

「いずれ出てくるだろうが、アニメの使用テーマが優先されるからな」

「今のアニメは主人公が『時空』のテーマよね」

「そんでライバルがアキラ50%さんの『混沌』だな」


そうなんだよね。メシアシリーズの神様はまだ出てこないから、仕方なくビジュアルが凄い強そうなドラゴンさんにしたんだ。


「ふはーっはっはっはぁー!」


僕はもう勝った気分でいた。


その一言を聞くまでは。


「君の神が顕現したことで、こっちの神も顕現条件を満たしたよ〜おいで悪戯の権化……『狡知の神ロキ』!」

「なっ……!? ば、馬鹿なっ!」

「そして『狡知の神ロキ』の権能をオーダーするよ〜……効果は指定した神と自分の神を対消滅させま〜す♪ この効果にありとあらゆるカードの効果は発動できませ〜ん」

「ふざけるなぁぁぁ!!!」


あれほど顕現させるのに時間が掛かった僕の神は既に神戦領域に居ない。


「ぼくは……あざとーすのけんのうをおーだーする……けんげんじにたいかとしてしはらったしとをしんそうとしてそうびする……」


僕は現実を受け入れられなかった。


「ダメだ。ビッグのやつ既に居ない神の効果を読み上げてるぞ!」

「まあ、そもそもクトゥルフの神々は初期の神だから耐性とか皆無だもんなー」

「『狡知の神ロキ』は完全に神メタのカードで一世を風靡した禁止カードだからしょうがないわね〜」


そして外野三人組は神楽道さんを見て口を揃えて言う。


「「「汚い! さすが『破滅』使い、汚い!」」」


その後はあまり記憶が無い。


気がつけば負けてるし、外野からは慰められるし、神楽道さんはずっと高笑いしてるし。


次は絶対に巫女服着させてやらぁ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る