第6話 お誘いと、私の生き方
その後、一体を倒し切った皆はミノタウロスの攻略法を完全に覚えたのか、前衛へのヒール以外はほぼ被弾がない。
「”ブラッドスラスト”!!」
エルバートの一撃は、ミノタウロスの喉に突き刺さり、派手に血を巻き散らしながら、ミノタウロスは倒れた。
「うおおぉぉ!!!!」
「やったあぁぁあぁ!!!」
「勝ったぞ!!」
みんなが、二体目のミノタウロスを倒したのを見て、歓声を上げた。
「やったね!」
「ナイスだ、リリーさん!」
私もエルバートと喜びを分かち合う。
たかがミノタウロスなのに、倒せてこんなに充実感を覚えたのは初めてだった。
二体目の乱入というトラブルにも動じずに、みんなが自分の果たした結果というのが、さらに喜びを与えてくれたのだろう。
私達は勝利を喜び、戦利品を剝ぎ取って手に入れると、村に戻ることにした。
帰り道、エルバートが私に声をかけてきた。
「ミノタウロスを二体倒したから、報酬も二倍。ただでさえ高額報酬だ。やったな、リリーさん」
「うん。ちょっと焦ったけど、結果よかったよね!」
「あんたのおかげだ。ヒーラーがいるって、こんなに楽なんだな」
「そんなことないですよ……私なんて。何も知らなかった。こんなにみんなが、凄いことを日々しているなんて」
私は今まで、勇者以外の冒険者たちを、そこまで重視していなかったかもしれない。
でも、そこには、自分が思った以上に、熱い戦いがあった。
「今は……フリーなんだろ?」
「うん」
「この先のことは、何も決めていないのか?」
「この先のこと、かぁ」
今の私には何もなかった。
魔王を倒す目標も、勇者と故郷に帰って暮らすことも。
とにかく全部を、そのことに賭けてきたのに、全て失ってしまったのだ。
先のことも、したいことも、何もなかった。
「だったらさ、俺たちと一緒に来ないか?」
「え?私が?」
「そうだよ。アランに取られる前にって思ってな。俺たちはみんな近距離ファイターだ。ヒーラーがいるとめちゃくちゃ助かるんだよ」
「そっか……それは楽しそう、だけど……」
でもやっぱり、まだ、気持ちを切り替えて誰かと旅に出よう!とは思えなかった。
「いいさ。ヒーラーは貴重だ。俺たちみたいなのとつるむより、もっと上を目指せるメンバーもいるだろう」
「そんなことないです!エルバートさんも強いです!」
それは私の本心だった。
「はは、ありがとうな。まあ、もしまたどこかで出会って、気が変わったりしたら、その時にでも考えてみてくれ。リリーさんが泣いてたのは知ってる。この村にはアラン達より、先に着いてたからな」
「えぇっ!?知ってたんですか?」
私が酒場で毎日のように、子供の様に泣き喚いていたのを、エルバートは知っていたらしい。
恥ずかしすぎる。私は思わず顔を覆った。
「忘れてください……」
「気にするな。人生、誰にでも辛い時期はある。でも、もうちょっと自信を持ってもいいと思うぜ。あんなに的確な回復、初めて見た。今日は戦えて嬉しかった」
「う、うん。私も。ありがとう」
私は元気づけてくれたエルバートに、そうお礼を言った。
私自身、大人数と共闘できて、イレギュラーにも対応できたので、大満足だった。
自信がからっきしだったけど、少しだけ取り戻せたかな。
村に帰って、報酬を分配されると、私たちはそのまま酒場へ向かった。
みんなは最初に会った時の大人数用のテーブルで騒いでいたけど、私はさっそくカウンターにいる、エイヴェリアのところへ走った。
「エイヴェリア!無事終わったよ」
「あら、お疲れ様。リリーちゃん。よく頑張ったわね!」
「うん、聞いてよ。みんなすごいんだよ!」
私は嬉々として今日あったことをエイヴェリアに話した。
エイヴェリアは、いつもの優しい目で、私の話を聞いてくれた。
私はその日、パーティを追放された日から初めて、泣かずに夜を過ごした。
「でも、良かったの?エルバートちゃんのお誘いを、断っちゃって」
「うん、いいんだ。それでちょっと……お願いがあるんだけど」
「どうしたの?」
私は、実は密かに考えていたことを口に出した。
「私を、ここで働かせてくれないかな?」
「あら、本当に?でもいいの?冒険は……」
「うん。いいんだ。私、この村と、ここが大好きだから。役に立ちたい。それに……私が減らしちゃった客足も……取り戻したいしね!」
「そんなの、気にしなくてもいいのよ。でも……そうね。繁盛期は、実は一人だと大変で、お客さんを待たせることも多かったの。フロアで働いてもらえたら、助かるわ」
エイヴェリアはそう言って、私の提案を受け入れてくれた。
「本当に?いいの?!」
「ええ。それじゃあさっそく、着替えて、配膳でもしてもらおうかしら」
「え?今日から?今日はお客さんだからいやだよ。明日から!」
雇ってもらったというのに、私はすぐに出勤日の調整を申し出た。
だって、一仕事終えたばかりだし。
今日くらいは勝利に酔いしれたい……
「……あなた、意外とちゃっかりしてるわよね」
エイヴェリアはそう言って、笑った。
こうして、この村の酒場で働きながら、たまーにヒーラーなんかもやってみるような、そんな私の新しい生活が、始まったのだった。
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