とある失踪宣告を巡る人間の物語

 家庭裁判所の調査官である相川は、とある案件を担当することとなった。不在者の生死が7年間明らかでない者へ失踪を宣告し、死亡したものとする失踪宣告――それを行うための諸々を調えるため、相川は調査を開始したのだが……

 タイトルにもなっている800円とは失踪宣告の申立手数料となります。そして申立をする申立人は不在者(失踪した人)の利害関係者(不在者の死亡で諸々の利害を被る人)。相川さんは申立人である不在者の娘さんや関係者さんに聞き取りを行っていくのですが、一見静かなやりとりの中から、人々の穏やかでも単純でもない関係性や心情のうねりが染み出してくるのですよ。東日本大震災で多くの失踪調査に携わった相川さんの設定を十二分に生かしつつ、何気ない文章を連ねることでその大きさを浮き彫りにする著者さんの筆、実にすばらしい。

 そこに居ない人間を中心とし、そこに居る人間の模様を描き抜いた、濃くて厚い人間ドラマです。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)

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