みんなが僕を、無視する理由

夢色ガラス

第1話

「…っやば!朝だ!」

僕は朝8時を指す時計を見て、悲鳴をあげた。ヤバイ、いつもは家を出ている時間だ。急がなくちゃ。冷や汗を流しながら服を着替える。昨日のうちに準備しておいたランドセルを背負って自室を出る。学校の廊下だったら怒られるくらいの速さで走って、リビングに来た。

「ママ、パパ、おはよう!」

頭痛でもするのか机に突っ伏したママと、難しい顔をして新聞を読んでいるパパがいた。ふたりは、僕が来たことにも気付いていないかのようにこちらを見ようともしない。

「ママ?パパ?」

ふたりはずっと無視し続けている。うぅ、昨日夜遅くまでゲームしていたこと、まだ怒っているのかな…?

「はぁ…、もう8時10分ね。ほらあなた、行きましょうか」

ママが弱々しい笑顔でそう言った。パパは仕事の時間のようだ。僕は学校に遅刻しそうなことを思いだし、慌てて家を出た。


「ごめんなさい!寝坊しちゃって…!」

僕は大声で謝りながら教室に入った。…おかしい。いつもは遅刻するなーってふざけながら怒ってくれる面白くて優しい先生が、今日遅刻をした僕に向かってなにも言わないのだ。まるで、存在していないかのように。友達だってそうだ。いつもみたいにおっせぇーって笑ってくれる友達だって、今日は何も言ってこない。こんなの、おかしい。なんで誰も僕を見ないの?なんでみんな僕を無視するの?

「僕はここにいるよ!」

ズタズタ音を立てて自分の机まで歩いていっても、誰も何も言わない。ただ…ただ、次の瞬間、僕は自分が無視されている理由を知ることになる。

僕の席に、僕の机に、毎日使っていた木製のそれに…。


美しく可憐に咲いた、菊の花が置いてあったからだ。



<解説>

主人公の『僕』はもう、亡くなっています。死んでから49日経ったこの日、『ママ』と『パパ』は忌明けの習慣のとおり、『僕』を気持ち良く天国へ送ってあげられるように仕事を休んででかけるのです。『僕』は自分が死んだことに気付かず、いつものように学校に行ったのでみんなが自分に気付いてくれないとショックを受けたのですね。『僕』が生き返った時に幸せになれることをを切に願うばかりですね。

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