第8話:初出動


 ホバーボードに乗ったセラとリューネは、あっという間に下位13番隊が利用する寮に辿り着いた。それぞれ部屋に駆け込み、装備品を持ち出して再びホバーボードに乗って出航口へ走り出す。

 

 学園都市の守護のため学外へ駆け出す人たち。

 緊急招集を受け、学園から協会に向かい空を駆ける高速船。

 彼らと同じように出航口へ走っている人。

 緊急速報から数分しか経っていないが、既に多くの人が災害のために動き出していた。


 アトラ隊長の船、というかである「スターゲイザー」は、彼女が嘗ての災害で戦功として得たものであり学内でも珍しい完全な個人用の船である。

 そんな船が保管されている13番出航口に、僕たちが着いた頃には全員が揃い踏みであり、船内へ搭乗をし始めている最中であった。


「セラ!リューネ!急いで乗って!」


「「はいッ!」」


 搭乗の最後を務めようとしていたアトラの声に僕たちは大きな返事で答えた。

 そして船の搭乗口でホバーボードを素早く脇に抱え、船に駆け込む。


 船内のロビーには、駆けこむように搭乗したセラとリューネ、同じ隊のニア。

 12番隊のアイン、ミヤビ、カイの幼馴染三人組と中位戦士である白から緑のグラデーションの髪と細身で中性的な顔立ちが特徴のアズール、彼らの隊長である黒人男性のエギ。

 そして最後に搭乗したアトラ。

 計九人の戦士が揃った船内だったが窮屈は無く、まだゆとりがある様子であった。


「マーク!もう大丈夫よ、飛ばして!全力よ!」


『了解デス。スターゲイザー発進準備シマス。」


「それじゃ出動するわよ!皆!掴まれるところに掴まって、衝撃に備えて!!」


 アトラの声に反応し、船内に居る人たちが近くにある手すり、椅子などに掴まった。


 アトラの戦艦、スターゲイザーに搭載されている人工知能のマークが船のエンジンを起動させる。


 船内に響く、高回転するエンジンの音。カタカタを揺れる床。

 さらに、彼らの居るロビースペースにモニターが映し出され、外の様子が映る。

 船が停泊している出航口の屋根となっているハッチは、いつのまにか開けられており夏空が差し込んでいた。その空には先に、出航したとみられる船が飛んでおり、スターゲイザーの出航を急かすかのように通り過ぎて行った。


 スターゲイザーの周囲に居る飛行船の整備士たちが駆け足で離れていく。最後に残った整備士が船を着岸させていた鎖を外した。船は少しぐらつき、高鳴るエンジン音と共に浮遊し始める。

 船内でもその揺れは感じられ、その後の浮遊により戦士たちは近づく出航を感じ取り再度掴む手に力を込めた。


 『ソレデハ船内ニ居ル戦士ノ皆サン、舌ヲ噛マナイヨウ、気ヲ付ケテクダサイ。 



 スターゲイザー!発進!!』

 


キュイイィィィィンンン!!!



 高音で激しい音共に船体に付けられているエンジンから気流が生成され、スターゲイザーは真上に開かれたハッチ目掛け垂直で飛び上がった。

 

 襲い掛かる重力の力により、アトラを除いた船内の人々は思わず突っ伏してしまいそうになる。

 上空にて船が安定し、船内の人々が体勢を整えるのを確認しアトラが告げる。


「さぁ!出動よ!!」 



――――――――――



 空高く昇る夏特有の雲、大気に流れる風をスターゲイザーの船首が切り裂き、空を駆ける。高性能の高速船でもあるスターゲイザーの能力は凄まじく、初出動の彼らをアッという間に災害が発生している街まで送り届けた。


 街はセラがいた所と同じ円形をしているが、一回りほど、こちらの方が大きかった。街の上空には戦士を送り届け上空で待機している船が見られ、その数から既に多くの戦士が戦場となったこの街に駆けていったことがわかる。


 スターゲイザーがゆっくりと下降し、船底から折り畳まれて収納されていた脚を展開し着陸をした。

 扉が開き、セラ達が次々と飛び降りる。


 全員が降りた所で、あらかじめ船内でアトラを始めとした隊長たちから配られていたイヤホン型の無線に連絡が入る。


『こちら総指揮ガラナだ!12、13番隊、着いたか!12番隊は北勢の地域、13番隊は南勢の地域にて人民救助をよろしく頼む!先に中央の教会に避難させられた部隊は片方の援護へ迎え!』


「こちらアトラ

「こちらエギ


 了解!!」」


 二人の隊長が無線に答え、それぞれの隊に別れて駆け出し始める。

 いよいよ始まる、と心に唱えた僕は初陣の緊張に身体が上手く動かずにいた。

 部隊の去り際、僕の元にアインが立ち寄り声をかけてきた。


「セラ!何かあったら俺が助けてやるからな!」


「やめてくれよ!僕も得意だから大丈夫だから!」


「ハハッ、そうだな。じゃまたな!」


 と訓練した五年間、僕がボコボコにされた期間は決して裏切ることはなかった。この身体に刻まれた戦闘訓練に関しては、勉強と違い学園でも成績が良かった。

 そのことを分かってるアインは僕の緊張を解すために茶化したのだろう。


(・・・ありがとう)

 

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