第7話:始まりの授業



『災害を具現化せし九体の使徒を穿つ時。十の使徒は、既に人類と共に存在する。


 全てを天に返した先で、天から星壊が降臨する。』


 学園アルゴに入学した際、一番初めに学ぶ事である。


 これは、天の御三家が遥か昔に、から見つけ出した書籍に記載されていた事柄である。


 彼らは、この書籍の事柄を各家で伝承として語り続けた。そして、前身となる灯の教会に書籍を保管し、創天協会となった今でも大切に管理している。


 この書籍には事柄にも出ている使に関しても詳細が記載されていた。


   

『一の使徒、知恵を司り、文明を喰らう。


 二の使徒、空間を司り、生きる人類全てへいかる。


 三の使徒、支配を司り、妬みを力に変え全てを掌握する。


 四の使徒、時間を司り、欲を煽り存在を凍らす。


 六の使徒、命を司り、生命の在り方を拒絶する。


 七の使徒、幻影を司り、真実をも虚栄する。


 八の使徒、誓約を司り、自らを神と名乗る。


 九の使徒、蔓延を司り、世界を恐怖に陥れる。


 十の使徒、███を司り、全てを愛した。』



「あーあ、テスト面倒だなぁ。」


 日も暮れ始めたころ、僕、セラ・アルティスは、そう呟きノートを閉じる。


 あの日から二週間が経ち、身に纏う制服兼戦闘用の服も少しは馴染んだような気がしてくる時期にもなってきていた。


「おいおい、セラぁ。そんなネガティブなこと言うなよぉ。せっかくテストの事忘れて気分よく帰路につこうと思っていたのにー。」


「ちょっと!アイン!テストを忘れてたってどういう事?赤点だったら補修なのよ?」


「い、痛い!?分かってるってミヤビ!分かってるから耳を引っ張らないで!」


 僕の横でコントを繰り広げるのは、明るい赤い髪のアイン・マグナと淡い青の髪をした空美そらみミヤビ。

 入学初日に学園内で迷子になっていた僕を助けてくれた二人で、同時期入学、いわゆる同期である。更に、僕と同じ16歳ということもあり、すぐに仲良くなった。

 

 そんなやり取りをする彼らの横に、ホバーボードに乗った藍色の髪の青年が並びかける。


「おーい!アイン!ミヤビ!オレは先に帰るぞー。」


「あ!カイ待って!俺の荷物だけでも乗っけてくれよ!それじゃセラ、テスト頑張ろうぜ!!」


「ちょっと二人とも私を置いてかないで!!セラ君、またね!」


 カイ・ヴァイスが乗るホバーボードが再び加速し始め、風を切って走り出す。

 それを追うように二人が駆けだしていった。

 同じ銀の首飾り押した三人の幼馴染は、騒がしく駆けていく。

 彼ら幼馴染三人組が去った学園の帰路はセラのみが取り残されてしまった。


 記憶が残る五年前からミルネ以外の人と親しくすることが無かった僕にとって、学園に来てからの二週間は怒涛の生活だった。アインやミヤビを始めとした同世代の子、先生や隊長、仲間の存在、すべてが新しく、輝いて見える。


 少し黄昏たそがれる僕の肩を誰かが叩いた。

 ハッとし、現実に戻って振り返る。

 

「おいセラ、ぼーっとしてないで早く帰るぞ。明日のテストに備えないと補修なんて喰らったら面倒だぞホントに。」


 いつの間にか僕と同じ下位13番隊に所属する黒髪の青年、イ・リューネが隣まで来ていた。


「あ、あぁゴメン、ゴメン、リューネ。テストなら大丈夫!簡単だし!」


「本当に?本当に大丈夫か?補修の時間のせいで、隊の合同訓練に影響出るのは困るから頼むぞ。」


「ワ、ワカリマシタ・・・。」


 テストに楽観的な僕は、リューネにくぎを刺され思わずたじろぐ。


 そんな会話をしながら、セミの音漂う夕暮れの中、二人は帰路につく。



 ――――――――――

 三日後



 天気も良く、夏空に雲が高く昇る日。 

 とある教室、三十人は収容できるような大きな部屋にシルバーグレーと明るい赤のみが並ぶ。


 冷や汗を垂らし、下を向く二人。普段の教室よりも広く感じる。


((まずいまずいまずいまずい))


 ガンッ!


「「ッ!」」


 セラとアインは、ドアの開く音に肩をビクッとさせる。

 長く美しい紺の髪に白いインナーカラーが特徴の下位13隊隊長、アトラ・ルースターが入室する。一言も発さず、ただ彼らの元へ歩いてきているだけなのだが、教室の、温度が上がったかのように感じられた。


((絶対怒ってる!!))


 僕たちの冷や汗が止まらない。

 美しい髪が燃ゆるかのように揺れているかのような錯覚をした。

 今までずっと黙っていたアトラの口が遂に開く。


「・・・あんたたち、分かってるの?」


「「ハ、ハイ。」」


「あれだけ補修はダメって言ったじゃない。この様はどういう事?」


「「・・・申し訳ございません。」」


 まるでプログラムされたロボットように返事する僕たち。

 

「まずはセラ!」


「はいっ!」


「よく隊長である私のテストで補修になったわね。名前の書き忘れってどういう事?」


「う、うっかりしてました・・・。」


 凍り付く表情。僕の心臓が掴まれているかのような感覚。

 圧だけで倒れそうだ。

 横の方をチラッと見ると、アインが尋常じゃないくらいに震えていた。


「次はアイン!」


「は、はいぃ。」


「いつもセラと仲良くしてくれるのは、セラの隊長としてはありがたいけど。だからと言って補修まで一緒なのは駄目よ!」


「うぅ・・・。」


「テストの点も酷いし、これ途中で選択肢の欄ズレてるでしょ。しっかりしなさい!」


「す、すみません・・・。」


 僕の横でアインの気が抜けて行く。


「はぁ、もう終わったことだし、あんたたちをこれ以上責めないわ。」


 アトラは気を取り直して授業の準備をする。

 物凄い速さで板書が始まった。

 様々な図、単語、その要約が、チョークの弾むと共に書き上げられている。


「じゃあ、始めるわ。二人ともいい?」


 うなずく二人を確認し教鞭をとる。


「まずは戦士階級と隊についてね。簡単に分けるとしたら、下から下位、中位、上位の階級に分かれているわ。

 下位はあなた達みたいな新入生が所属する階級ね。そこから実力や戦果、実績を経て中位、上位と上がっていくわ。・・・まぁあと、上位にも当てはまらない規格外の階級があるけど、今回はやめておくわ。

 あと、隊ね。今あなた達が所属しているのが下位番号隊よ。新規の戦士二名以上と中位を一名、上位を隊長として形成されているわ。

 ここまでで何か質問は?」


 言葉を受けアインが手を上げる。


「あの、下位番号隊に所属していた新規の戦士が中位に上がった場合ってどうなりますか?」


「いい質問ね。その場合、下位番号隊としてじゃなくて部隊として扱われるようになるわ。あと言い忘れてたけど、アークの次第で学園や協会から臨時で招集がかかって部隊を編制することになってるから覚えておいてね。」


 アトラの言葉を逃さないように二人はノートに書きとどめる。





「それじゃあ次ね。」


 アトラが二人がノートに書き終えたのを確認し、授業を再開しようとした時。


 ピーッ!ピーッ!ピーッ!


 彼らの手首に巻かれたデバイス、教室のスピーカーを始め学園全体が警報に埋め尽くされた。


『緊急速報です!緊急速報です!北アメリカ連邦旧アラスカ地区にて星壊災害発生!災害規模不明!要請を受けた部隊は直ちに出動してください!

 現場では人民救助、星壊の獣の制圧を最優先!その後、幻造種ファンタズマの調査を開始してください!

 飛行船の出航口1番から14番まで解放!高速船の使用も許可します!

 また、要請を受けていない戦士は学園都市の警護に当たってください!

 

 繰り返します!・・・』


「え、俺たちもしかして」


「僕たちのデバイスが鳴ってるってことは・・・」 


 僕たちが戸惑っているの他所に、アトラは急いでポケットからイヤホン型の無線を取り出し右耳に装着して、声を張る。           


「出動要請よ!下位13番隊隊長として指令を下す!下位12、13部隊は13番出航口にある私の船に集合!さぁ、急いで準備して!」


 そう言い残し、アトラは僕たちを置いて教室から出ていった。

 初出動の要請に驚きを隠せずにいた僕とアインも彼女の後を追うように駆けだした。



 

 一度、寮に行くためアインと別れ一人で走っていると学園の校舎を出た所でリューネと合流した。


「補修なんか喰らうなよ、バカ!早く行くぞ!」


「その節は、本当にゴメン・・・。」


 僕たちは、リューネが迎えのために持ってきていたホバーボードに乗り、学園を駆けていく。

 

 





 

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