第20話

※  ※  ※



 真人救出に失敗したウィザたちは大勢の取材班に取り囲まれた。


「ウィザさん! 真人さんはどのような状況だったのですか!? 間近でみた感想は!?」

「六層までいって彼を救出できなかったいまのお気持ちは!?」

「かつての魔物になってしまったかつての相棒に対する心境の変化はありますか!?」


 取材班はマイクを向けて無遠慮な質問を次々と投げかけてくる。


「どけどけ! いまはインタビューに答えてる場合じゃない!」

「この子への質問はわたしを通しなさい!」

「ウィザちゃん、はやくここは離れよう……」

「……さい……」

「ウィザちゃん……?」


 仲間たちに庇われるも、ウィザはマイクを一つ奪い取った。

 

「許さない!」


 大音量の怒鳴り声がギルドを震わせた。


 騒がしかった取材班も口を閉ざし、だれもがウィザに注目した。


「許さない許さない許さない許さない許さない……あのメスブタも……あんなブタに現を抜かしている真人さんも……ダンジョンも……この世界も……なにもかも許さない……」

「うぃ、ウィザちゃん……」


 リーマンがウィザの肩に手を置くも、彼女はその手を振り払った。


「触らないで! 男なんてみんなクソよ……そのなかでもあの男は特にクソ……絶対に許さない……」

「うぃ、ウィザさん……あの男、というのは真人さんのことで……」

「そうよ!」

「ひっ!」


 血走った目で記者の一人を睨みつけるウィザ。


 鬼のようなその表情に、誰もが言葉を失った。


「あなたたちに宣言するわ。わたしは必ずあの男を、天野真人を殺す」

「え、ええと……それは殺人罪になるのでは……」

「殺人? さ・つ・じ・ん? はっ、あいつはもう人じゃないわ。魔物よ。いいえ、魔王よ! 黒竜を使役して雌の魔物をはべらせる魔の王! 殺すしかない! 殺すしかない! 殺すしかないのよ!」

「お、おいウィザ。落ち着けって」

「うぃ、ウィザちゃん……」

「リヨン、手伝って。この子を運ぶわよ」

「お、おう……悪い、通してくれ」


 琥珀とリヨンに抱えられ、ウィザはずるずるとギルドの外へと運ばれていった。


 取材班も彼女の豹変ぶりに気おされ、道をあける。


「殺すしかないの! 殺すしかないのよぉ! 絶対に殺す! 私の手で! あの男を! 待ってなさいあなたたち! わたしが魔王真人の首を持って帰るその日を! あはは! あーっはっはっは!」


 悲しみに満ちた笑い声が、静まり返ったギルドに響いた。 

 

※  ※  ※



 サキの家にて。


 真人は彼女の背中から矢を抜いて薬草で作った軟膏を塗っていた。 

 

「ごめんな、俺の仲間が」

「いいのよ。それより、あなたはこれでよかったの?」

「……ああ。俺は魔物として生きていくよ」

「それだけ?」


 サキの質問の意味がわからずいっしゅん固まるも、真人は少し考えて彼女がなにを言って欲しいのかがわかった。


「サキといっしょに生きてく」

「正解」


 背中の羽をぱたぱたとはためかせ上機嫌になるサキ。


「でも」

「でも?」


 真人はこれから探索者たちが自分の命を狙ってくるであろうことはすでに予想していた。


 このまま彼女と一緒にいれば危険にさらしてしまうかもしれない。


 本当は彼女をもっと上層に移して、自分だけが低層階で彼らを撃退する方がいいのだろう。


 それはわかっている。わかってはいるのだが。


「いいや、なんでもない。俺はサキといっしょにいたい。サキは俺といっしょにいてくれるか?」


 恋人と少しでも長く同じ時間を過ごしたい。それが真人の一番の願いだった。


「もちろんよ。むしろ一人でどっか行こうとしたってどこまでもついていくんだから」

「そっか……じゃあ、離れないでくれよ」

「離さないでよ。わたしのこと」


 サキはベットの上で仰向けになると、甘えるように両手を伸ばしてきた。


「ああ。離さない。絶対に」


 真人は彼女を抱きしめ、二人は唇を重ねた。


 いつまでも、いつまでも。


 いつか一つに溶けあうのではないかと思うほど、長いキスだった。

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英雄、魔人化トラップを踏んで人里に帰れなくなりダンジョンで暮らし始めるも強すぎてバズる。 超新星 小石 @koishi10987784

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