第9話

 五層の森に到着。


 生い茂る草木によって空気が厚いというか、濃い感じがする。このエリアにいる魔物はみんな筋肉質なのは、きっとこの空気のせいだろう。


 前にきた時は常に気を張ってて景色を楽しむ余裕なんかなかったが、今は魔物を警戒する必要もないし、観光気分でゆっくり見物していこうかな。


「じゃ、五層はただの通り道だからさくさくいくわよ」

「マジかよ……」

「なんで? なにか用事でもあった?」

「いや別に……」


 サキによると五層には頻繁にくるので肉は足りているらしい。


 逆に魚は四層まで降りるのが大変で、その割に持ち運べる量が少ないから普段は敬遠しているそうだ。


「ちゃんとついてきてね」


 サキは背中に生えた小さな羽を使って器用に木々の隙間を縫っていく。


「クイック!」


 俺も身体強化のバフをかけて枝に飛び乗ろうと地面を蹴った。


 すると、


「うおおおおおおおおおおお!?」


 軽く跳んだだけなのにあっという間に木を飛び越えた。


 いったいどこまで上昇していくのかと思ったら、見えざる天井に頭をぶつけて落下した。


「ぐへっ! あ! あ! やばいやばいやばい! 落ちるううううううう!」


 地上に向けて真っ逆さま。この高さじゃまず助からない。


 鼻から牛乳を噴き出した幼児期。


 ドッジボールに夢中になっていた小学生。


 初恋の女の子がチャラ目の先輩と付き合っていることが発覚した中学生。


 女なんてと思いながら剣を振り続けたつい最近。


 様々な記憶が走馬灯となって瞼の裏を流れていく。


 ほどなくして俺は地面に叩きつけられた。


 空が青い。これが偽りの空だなんて信じられない。


 って、俺、なんで生きてるんだ。


「大丈夫?」


 地面の上で大の字になっていると、サキが顔を覗き込んできた。


「……たぶん」


 ちょっと自信がない。


 ためしに手足を動かしてみるがなんともない。感覚もある。


 あれだけの高さから落ちて傷一つないなんてどういうことだ。


「魔人の体は強靭だから、このくらいの高さからおちてもどうってことないでしょ」


 そういうことか。


 この体はもう以前とは別物だ。


 普段から人間の頃とは比べ物にならないほど身体能力が高いんだ。


 そこへバフをかけたから制御できなくなったってわけだな。


「ごめん、まだこの体に慣れてなくて」

「気にしないで。ゆっくり慣らしていけばいいわ」


 サキが手をさしだし、俺は助け起こされた。


「あなたってなんだかほっとけないわ。弟がいたらこんな感じなのかしら」

「はは……」


 あれ、いまの俺ってもしかして、ウィザと同じ立場なのだろうか。


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