02 中身はスキル本。げっ、譲渡不可か



「ここまで……長かったぁ。この本がなんの役に立つかは知らないけど……」


 もっとこう……なんだ。伝説の装備! とかそういうのを期待していたんだがなぁ。


「本の宝ってのは聞いたことがない」


 魔法の使い方とかでも書いてあるんだろうか。不思議な文様だけど。裏面を見ても同じだな。


「っと、ウィンドウが……」

 

 名称:【スキル本(ランダム)】

 効果:ランダムにスキルを取得できます。


「ランダムにスキルを与える本!? 売っぱらえば、数千万とかいくんじゃないか……!?」


 一攫千金なんて男のロマンすぎる。家族にも良い報告ができるだろう。2年近く帰ってないから死んだとか思われてそうだけど……金も稼がずにダンジョンに入り浸りの毎日だしな。

 だが、コレを売れば名誉挽回。一発逆転だ。探索者シーカーとして生きていくことを許してくれるだろう。


(水無瀬。下に何か書いてない?)


「ん? あ、えっ譲渡不可って書いてる……」


 ウィンドウの下にはしっかりと【備考:譲渡不可】と書かれている。

 教えてくれてありがとうだけど、知りたくはなかったなぁ。


「これ、売れない可能性があるのか。ここまでやってきたのに……?」


(ちょっと渋い気がする)


「だいぶ渋いよ」


(でも、なんとかして売れるんじゃない? 強引にでもさ。渡せなくても見せることくらいならできるかも)


 友達の言葉に体を起こして唸った。譲渡不可は文字面で言えば「渡すことができない」だが「使用不可」というニュアンスのある言葉ではない。


「さすがシャルロット。着眼点が鋭い」


(でしょ〜! へっへーん!)


 あ、紹介しよう。シャルロットだ。友達であり、相棒。

 一人での二年間のダンジョン生活中にシャルロットを初めとする空想友達イマジナリーフレンドが話しかけてきてくれるようになった。その中でもシャルロットは話しかけてくることが多い。おそらく暇なんだろう。


 説明をすると、彼女はボクが書いていた小説の中に出てくるキャラクターだ。作品タイトルは「灯火の守護者」という。

 あらすじは【エレ】という死なない体の青年が、英雄になるために過酷な道を進むファンタジー作品。

 そこにシャルロットは【英雄の妹】というポジションで出てきて、エレのピンチを助けたりとするのだ。

 キャラ設定を作り込みすぎてまるで眼の前にいるみたいに話をすることができる。


「譲渡不可なんてのは聞いたことがないから、試してみるのも良さそうだな」


(じゃあ、情報料として金貨5枚ね)


「騎士が一般人からカネを巻き上げんなっての」


(騎士だって農民だって王様だって生きてんだから、カネが欲しいに決まってるじゃない! ン、金貨5枚)


「手持ちがないので」


(じゃあ掛金つけとくわね。えーと、水無瀬は今は……金貨19枚も溜まってるから!)


 彼女の世界でいう金貨はここ日本の円換算にすると「1金貨=1万円」だ。

 貨幣価値を踏まえると「1金貨=5万円」くらいか? とまれ金貨が5枚もあれば父と母と子どもが一月は暮らせる。払えるかよ、ンな大金。


「……そもそも、ここから帰れるかが問題ってのもあるからなぁ」


 出た後の換金でも上手い具合に言いくるめられる可能性だってある。商人の口八丁に勝てる自信もなく。

 

「どのみち、スキル本ってのが聞いたことがないから怖い。……公言をしてないだけなのかなぁ」


(オブダンはクリアされたことはあるの?)


「あるハズだけど……うーん……」


 そもそも『オブジェクトダンジョンには何もない』と言われていた。いるのはめちゃつよボスモンスターだけ。

 最下層にああやって宝箱があること自体、聞いたことがなかったのだ。


「……」


 あれこれと考えても仕方ないか。価値はあると信じよう。


「よし、決めた……ボクはコレを使わない!」


(それを売ってお金ゲット〜!)


「それに、この戦法が通用することが分かったので! 他のオブダンの財宝も狙える!」

 

 モンスターと交戦をしなければ探索者シーカーに上がることはない。なのでこのまま戦わずに次のオブダンに向かい、同じようにスキル本やら何やらをゲットする。このスキル本の値段によっては次のスキル本は自分に使うのも選択肢の一つだ。


「よぉーーーし! まずは無事にここから生還する! で、換金して、次のオブダンにいくぞ!」


(オー! 頑張れぇい!)


 苦労をしてゲットできた財宝だ。これを売っぱらって、金を手に入れるぞ! 譲渡不可なんて知るか! 多分いけるハズ! 大丈夫! 


 だから、後は……あの犬っころのタゲが外れるのを待つだけだ。

 残りの時間で心の準備をしておかないと。戦ったら間違いなく死ぬし。

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