第6話 抜けないなら、根こそぎ行けばいいじゃん



   ◇◇◇◇◇



 ーー聖地「ホーリーエンド」



 ジャブジャブジャブッ……



 俺は結局泳いで湖の中央にある島に到着した。



「……は、恥ずっ……!!」



 本来であれば、かっこよくジャンプしてかっこよく降り立つ予定だったのに、もう恥ずかしくてたまらない。


 もちろん、スキルを展開している。


 “生活技能”《爆買い》。


 おそらく、爆裂に買い物しても余裕で持って帰れるとかの【家事師】のスキル。


 だが、何度も言うが、俺のスキルはぶっ壊れている。“魔物狩り”をさせられていた時に習得したスキルはわけが違う。


 だって、8歳のガキが20メートルくらいのミノタウルスを持って帰れるはずがないだろ?


 スキルの内容は、【拳闘士】や【剣士】の“身体強化”に似ているが、おそらくその数十倍の“全身強化”になっている。



(はぁ~……これでもかなり加減して飛んだんだけどな……)



 手を繋いで俺を見ているクレアとシャルルに軽く手を上げて安否を知らせると、クレアだけ手を振りかえしてくれる。



 トクンッ……



 心臓が脈打ち、顔に熱が沸く。


 ……うん。アイツ、俺のこと好きだな。

 間違いない。あの天使は俺に惚れてる。


 ……ヤ、ヤレる!!


 ほ、本当にヤレるかもしれん。

 “何を”とは言わないが、ヤレる気しかしない。


 だが、ここは慎重になるべきか?


 俺は誰とも関係を築いたことがないし、気のせい……、“勘違い”の可能性もなくはない……?



「だがまぁ……、“コイツ”を持って帰りゃ、関係が進展する事は間違いないだろ」



 俺は根本まで深く突き刺さってる「シンセンケン?」を観察する。


 刺さってる所は、他の地面とは違うようだ。ガラスのような半透明のクリスタルで、剣先までくっきり見える。


 柄には極東の龍(ドラゴン)。なんか蛇のようなヤツがデザインされていて、剣には3つの魔石が組み込まれている。


 こんな剣は見た事がない。

 かなり豪華な感じだが少しボロい。



「とりあえず、《目利き》だな……」



 対象物の“情報と値段”を可視化するスキルを発動させると、俺はブルブルッと身震いした。



 ▽▽▽▽▽


 “神穿剣(シンセンケン)”。



 太古の昔、邪神を退けたゴッドスレイヤーの愛剣。現在では、「7種の神器」の一つとして数えられている。



 推奨価格:∞



 △△△△△



(…………な、なんじゃぁこりゃぁあ! これ、めっちゃすごい剣なんじゃね!?)



 正直に言うと、俺は簡単な字しか読めない。

 基本的に値段でモノの良し悪しを判断しているのだが……。


 見た事もない数字? 記号?

 なんだ。これ……。スキルの誤作動か?


 いや、そんなはずはない。

 ……8B(ベル)? な、なんてな……。

 これには、何か隠された意味が……。



「…………………ま、いっか! とりあえず、ぶち抜くしかないしな!」



 考えても仕方ないし、ただ単に考えるのが面倒になった俺は、グッと柄を握りしめ軽く引き抜こうと試みる。



 シィーン……



 ……うん。マジでピクリとも動かない。軽くとか言いながら、ちょっと力入れてたけど普通に動かない。



「……ま、まぁ、そりゃそうだよな。こんな軽く抜けるはずないわな」



 正直、なんやかんや余裕で抜けると考えていた俺はここで内心焦り始める。



「つ、次が本番。ふぅー……行くぞ!! ほらぁああ!!!! んぬぬぬぬぬぬぬっっ!!」



 俺はそれはもう本気で抜きにかかったが、先程と同様ピクリとも動かない。



 俺の頭にはつい先程の“賭け”がチラついている。



 ーー2度と顔を見せるな。



 自分で賭けを持ち出し、軽く了承してカッコつけながら飛び去った。


(……や、やっちまった!!)


 俺は自分がギャンブルに弱い事を忘れていた。


 『シャルル。俺と友達になってくれ』


 賭けに勝ったら、そう言うつもりだった。俺には友達がいない。どうやって友達を作るのかもわからない。



 “友達”が欲しかったんだ。


 シャルルのような美人なら、なおさら友達になって欲しかった。


 一緒に旅行に行ったり、街を買い物して歩いたり、誕生日を祝いあったり、一緒に風呂に入ったり、身体を洗い合ったり、一緒に寝たり……!!


 ……いや、俺、自分の誕生日知らんけど!



「ふぬぬぬぬぬぬぬぬッッ!!!! オラァァアアアア!!!!」



 《爆買い》で充分だと思っていた。


 《掃除》でちまちま削るか……? 

 《洗濯》で“浄化”してみるか? 

 《乾燥》で地面を干からびさせる?



 いや、ここで手を離したら、“あんな自信満々だったくせに”ってな感じで、めちゃくちゃカッコ悪い!



「ぐぬぬぬぬッ!!」



 これは不味いぞ。

 ひじょーーーーに不味い!!!!


 このままじゃクレアと働けない。


 “シャルルと友達になる事で、クレアの好感度も爆上がりするだろ!”なんて考えていたのに、それどころじゃなくなった。


 初めて優しく接してくれる美人と離れ離れになる。つまりは、俺の『童貞卒業』の念願が遠退くと言うこと……。



「……ふ、ふざっけんなぁあああ!! 俺は抜く! コイツを抜いて……、俺もぉお!! 抜いてもらうんだよぉおお!!」



 魂の叫びだった。

 俺の心からの叫びだった。

 

 くだらないと笑えばいい。

 俺はやっと自分の夢をみつけたんだ。



 『“クレア”で卒業する』



 娼婦なんて絶対に嫌だ。

 クレアを見た瞬間、ビビッと来たんだ。


 俺はもう決めたんだ。

 俺の初めてはクレアに捧げる……!!


 『初めて』は絶対にクレアだ。

 2回目からは誰でも……、ぶっちゃけ綺麗な女なら、娼婦でも全然いい!!


 だが、全てはクレアを抱いてからッ!!



「夢の第一歩で躓くわけにはいかねぇんだよぉおおお!!!!」



 この“賭け”は絶対に負けれない。



 バクンッ!!



 心臓が激しく脈打ち、全身の血が沸騰する感覚に包まれる。



「ハッ、フハハハハハッ!! 俺の勝ちだ!」



 俺は勝利の雄叫びを上げた。



 その瞬間……、




ーー『《草抜き》を習得しました』




 女神の声が俺に教えてくれた。


 俺は多分、スキルを習得しすぎて回路がガバガバになっている。


 普通の人間は3つスキルを覚えれば“天才”と呼ばれるが、俺は余裕で3つ以上習得しているんだ。


 ……多分もう人間を辞めてる。



「く、《草抜き》ぃいいいい!!!」



 スキルを発動させると、クリスタルの中の魔力の流れが浮かび上がる。



(……つ、使えねースキルじゃねえか!)



 悪態を吐きながらも、魔力の矢印が薄くなったタイミングで思いっきり左方向へと力を込める。



「ふんぬぬぬぬぬぬぅう!!!!」



 バキバキバキバキッ!!!!



 クリスタルに亀裂が入る。

 ここだ。もうここしかない。



「ぬぉぉおおおおおおお!!」



 俺が何度目かわからない絶叫をすると……、



 ブワッ!!!!



 夜空に青白く発光する巨大な刃が顕現する。



「ハハハハッ!! なるほどな! コイツで“根っこを削ぐ”わけだ!」



 俺は右手を振り上げ、その刃の切っ先をクリスタルの亀裂に捻り込むように振り下ろす。



 ガキガリガリガキガリッ!!



「ほら、浮けぇえ!!」



 ヒョイとクリスタルを抉るように右手を動かし、掴んだままの左手に力を込める。




 ガゴゴゴゴ、バゴォォオ!!



 抜いた反動で俺は夜空に舞う。


 左手には巨大なクリスタルのカケラがついたままの剣が握られている。



(お、俺の勝ちだ……。強かったぜ、“シンセンケン”!)



 形はどうあれ、これは“抜いた”と言っても過言じゃないし、俺の大勝利で間違いない。



 “地面ごと抜き取ってシャルルの前に持って帰りゃいいって事だろ?”



 始めから、《爆買い》でそうするつもりだった。だから、保険として俺は言ったんだ。



 ーーアレをここに“持って来る”。

 


 そう。俺は“持って来る”と言った。

 “剣だけ抜き取る”だなんて一言も言ってないのだ。




 ゴゴゴゴゴゴォオオオオ!!!!



 湖の中央の島……、“クリスタルで出来ていたらしい島”がバキバキと崩れ落ち、巨大な穴に水が流れ込んでいく。



「ふぅ~……ここ最近で本気出したの久々だな……」



 ニヤリと口角を吊り上げ、美人な友達をゲットした事にワクワク、ドキドキしていたが……、


 

 ポワァアアアア!!!!



 湖全体を包み込む魔法陣が浮かび上がった。



「……ったく。次はなんだよ」



 俺が常時発動させている《いそじん》が「警戒」を知らせて来たが、「危険」ではないらしく俺は首を傾げた。



 

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