第21話 食料調達③

 さて。

 ぼく達は選んだ具材を購入し、帰路につく。

 こんな時間に学校に行くのは、経験がない。

 だからか、ちょっとは不安と期待が入り交じっている。

 当然と言えば、当然なのだろうけれど。


「……そういえば、あんたはこの学校でどうしていきたいの?」


 唐突だな。

 そんなことを話すような伏線、あったっけ?


「伏線というか、そんなことはないのだけれど……、一言で言うならば将来は何にするの? いや、なる——とでも言えば良いかな」


 将来——か。

 そう言われても、考えたことはないのだよな。

 この学校に入れたのも、強運があったからだし、それ以上のことを望む必要もない。


「いやいや……。ここに入れたことがゴールではないでしょう? そりゃあ、多くの生徒にとっちゃあここへの入学は日常の風景と大差ないのだろうけれども、あんたのような選抜組は違う。ある日突然、人生が一変する経験をしたはずだ。違うかな?」

「……そうだよ」


 選抜組は、いわば富豪達の戯れだ。

 制度からしてそう思われても致し方ないのだが——偏にそう言われるのは、選抜組に対する優遇だろう。

 選抜組は、どんな家庭からの出であろうとも入学・通学出来るように、学校にかかる費用は一切ない。学費、通学費、食費、エトセトラ……全てが無料だ。

 きっと真面目に払おうとしたら、何かしらの臓器を売らないとやっていけないぐらいなのだと思う。多分。

 でも、裏を返すと……それだけだ。

 学校でのアドバンテージは存在しない。

 学力がなければ、容赦なく落とされる——それが有栖川学園だ。


「まあ、いわゆる奨学金みたいなものだよね。返済不要ってだけで。……返済不要でも、奨学金って言うんだっけ?」

「学業を奨励するのだから、合っているんじゃないのか? 別に返済する物だけを奨学金と呼ぶ訳でもないだろう」

「……ま、それぐらい言い返せるなら、あんたはここでやっていけるかもね」

「?」


 きょとんとしてしまった。

 それを見て和紗は吹き出す。


「くっ……ふふっ。知らないの? まあ、知らないからそういう表情を取るのかもしれないけれど。要するに、選抜組の学費を支払っているのは誰だと思う?」

「そりゃあ——」


 言わずもがな、ここに通っている生徒の親だ。

 まあ、全員が全員、例外なくお金持ちなのだけれど。


「お金持ちなのは置いとくとして……、その彼らからしてみれば、養ってやっていると思われても致し方ないじゃない? わたしはそうは思わないけれどね。確かにそんな優遇はあろうとも、この学校の生徒であることには変わりないんだから」

「……そう言ってくれるだけで、有難いよ」


 正直、この学校に入れるだけで儲けものだ。

 別にこの学校で何かを成し遂げようとするつもりはない。まあ、お金持ちとコネクションでも出来れば、良いのかもしれないけれど。

 しかしながら、そんな欲を出せば——彼らに見破られるのは当然だ。

 金持ちになればなる程、お金への執着心は高くなる——そう聞いたことがある。貧乏人程散財し、金持ち程備蓄する。だから、貧富の差は広まる一方なのだ……と。


「……あんたはどう見る? この学校を」

「どう見る、って?」


 未だ入って然程時間も経過していない、新入生だぞ。

 何にも染まってもいないし、染まりたくても時間が足りていないというのに。


「だからこそ、だよ……。何かしらのカラーに染まってしまうと、やはり人は穿った見方しか出来なくなる……。だからそういう見方をする前に、真っ新の状態で聞いておきたい。どう、この学校は?」


 何というか、刺激的な雰囲気はするよ。


「無表情で言われても、説得力皆無なのだけれど……」

「そう言われてもな……。いきなり言われて、何とか捻り出した言葉だぞ。少しは感心ぐらいしてほしいものだよ」

「感心はしないかな。失笑はするけれど」


 そんなの、いつもしていることだろうが……。

 ぼくは溜息を吐いて、坂を登る。

 校門まで、あと少しだ。



 ◇◇◇



 さて、校門までやって来て、ぼく達はどうやって学校に入ると思う?

 当然、校門は閉まっている。先生も生徒も居ないし、強いて言うなら警備員が居るぐらいかな。

 実際、ぼくも知らなかった。

 けれども、和紗が森女史から聞いていたらしい。ぼくにそのやり方を伝授してくれた。

 校門の脇には、小さい通用口がある。けれども、この通用口も鍵が掛かっている。では、どうするかというと……。


「SNS、開ける?」


 ぼくはそう言われて、スマートフォンを取り出し、SNSを起動した。

 無論、この場合はツイッターとかインスタグラムではなく、学校独自のSNSだ。


「メールが一通、来ているでしょう?」

「メール……」


 個人と個人が、クローズドなやりとりをするために使うシステム——それがメールだ。

 プロフィールからメール画面に遷移すると、確かに一通メールが来ていた。


「そのメール、開いてくれる?」


 メールを開くと、そこには画像が添付されていた。

 画像はQRコードのようだった。


「QRコードらしいけれど……これをどうするんだ?」

「簡単。そこの硝子窓にスマートフォンの画面を当ててみて。そこ、カメラになっているから」


 どういうことかさっぱり見当がつかないけれど——とにかく和紗の言うことに従うこととした。ぼくはスマートフォンの画面を扉の脇にある硝子窓に当てると——、

 ——ガチャン、と鍵が開く音がした。

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