第20話 食料調達②

「何が食べたい?」


 そこまでいったところで、和紗がぼくに問いかけた。

 いやいや、どう見たってその中身で作れる料理って、結構限られてこないか?

 カレーとシチューと肉じゃが以外に、何か選択肢があるのか? だったら良いのだけれど。それ以外に何か別の料理が思いつくのなら、教えてほしいぐらいだ。


「いや、別に。これ以外でも良いと思うけれど。カレーを作ろうと思って、食材を勝手に放り込んでいったけれど……、良く考えたらリクエストを聞いていなかったな、って思って。まあ、リクエストがないならそれはそれで良いと思うけれど」

「リクエスト、ねえ……。まあ、ないことはないけれど」

「あるの? ないの? はっきり言ったらどうかな」

「あるよ。あるけれど……、こういう場面だったらやっぱりカレーなのかな、って。料理にもTPOがあると思うんだよ、時と場所と場合、だったかな? それらを考えた時、ここで例えばカルボナーラが食べたいと思っても、あんまり食べたいと表に出すことはしないだろう? やっぱり合宿とかキャンプの定番はカレーだ……と思うし」

「ふうん。そういうものを重要視するタイプ? 何だか意外」


 意外か?

 もしかして、キャンプとか合宿とかそういったものと無縁とばかり思っていたのなら——そいつは正解だな。

 ぼくは生まれてこのかた、そういったものへの縁が全くない。


「まあ、そうだろうと思ったけれど」


 バレていたか。

 まあ、それならそれで良いのだけれど……。ぼくはここに入るまでも、これからも、陰キャを演じ続けている訳だし、キャンプや合宿は陽キャのものだろう?


「別にそういうことはないと思うけれどね? やりたかったら、誰でも出来る権利はあると思うけれど。それとも、そういうのは自分からやろうとは思わないタイプ?」

「それはそうかもしれないな……。自分からキャンプなんてやろうとは思わないな。暑い中、外に出るなんてどうかしている。冷房の効いた部屋でインドア趣味でもしていた方が良い」

「だからあんた陰キャなんじゃないの?」


 核心を突かれたような気がするので、ぼちぼち会話を終わらせておこう。


「……話を戻すけれど、何が食べたいっていうリクエストは特にないとの理解でOK?」

「まあ、何でも良いよ。ぼくは料理を作る腕がないもので」

「作ろうとしないだけじゃなくて?」


 痛いところを突いてくるな、全くな。

 確かにそうかもしれないけれど、言って良いことと悪いことがあるだろ。


「今のは言って良いことでしょう?」

「何処が?」


 気付けばぼく達はカレールーやシチュールーが売られているコーナーへとやって来ていた。

 しかし、ルーの種類も半端ないな……。辛口、普通、甘口だけかと思いきやそんなことはなく、十辛や百辛まで用意されている。ココイチか、ここは?

 カレーの味も幅広く用意されている様子だ。カツカレー風味——ルーの中にカツでも入っているのか? 流石にカツは自分達で用意しろという訳ではなさそうだし——ハヤシライス、海軍カレー、熟成カレーなどある。

 そんな中、ぼく達が選んだのは至ってシンプルなルーだった。多分一番売れているカレールーじゃないかな。リンゴと蜂蜜の写真がパッケージに描かれている、それだ。


「やっぱり、これが一番美味しいんだよね……。奇をてらって、色んなルーを選んだこともあるんだけれどリピートはしないんだよね」

「そういうものなのか?」

「自分でカレーすら作らないの、あんた」


 カレーはボンカレーに限るからな。


「それ、レンジで作れるというだけで選んでいないかしら? ……まあ、他人の事情に足を突っ込むつもりはないけれどさ、きちんと自炊はした方が良いと思うけれどね。栄養バランスとか考えたことある?」

「考えたことはないかな。お腹を満たせれば、それで良いような気がするけれど」

「……あんた、どういう育ち方したのよ……」


 深い溜息を吐いて、さらに座り込んでしまった和紗。

 何だか、変なことを言ってしまったのだろうか?


「まあ、良いわ。とにかく、お腹を空かせて待っているでしょうから……急いで帰りましょう。ええと、味付けは甘口で良いかなあ」

「辛口よりはそっちの方が良いだろうな……」


 辛口が好きな可能性もゼロではないだろうが、それはある意味賭けだ。

 辛口を食べられない人は多いかもしれないが、甘口が食べられない人は然程多くない——はずだ。甘すぎて食べられない、と宣う人間も居るかもしれないけれど。


「今日の料理はカレーか?」

「ええ、そうなるわね。……あー、そうだった。お米も買わないと。無洗米が良いかな、やりやすいし」

「それにしてもそんなにテキパキ出来るってことは、普段から料理をやっているのか?」


 お嬢様は、そんなのは無縁だろうし。


「お嬢様だからメイドや執事は居る……のは間違いないね。けれども、全員が全員お嬢様として生きていく訳でもないでしょう? うちの方針かもしれないけれど……、一応一通りのことが出来るように教えられるんだよ。姉は全然出来なかったけれど」

「へえ。それじゃあ、料理も?」

「メイド長に教えられたよ。一応、カレーとかそれぐらいなら作れるようにね」


 そりゃあ大した物だ。

 まあ、そういう意味でも学校生活というのは悪くないのかもしれないな……。一般常識や共同生活を経験させることで、世間を教えるという役目も担っているのかもしれない。

 そういう意味では、選抜組はこういった人間に世間を教える役目も担うのか。

 追加料金をもらった覚えはないけれどね?

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