第3話 活動内容

「……何だって?」


 超能力者に……魔法使い? 幾ら何でも、そんな存在が居ると思っているのだろうか?

 だとしたら、常識がないというレベルではない——変わり者のレッテルを貼られても、おかしくない。


「超能力は絶対に存在する。わたしはそう思っているの。だって、そうじゃなければ説明つかないことも多いのだから」


 例えば?

 流石に、何でもかんでも説明はつかない——なんてことはないと思うけれどな。


「ストーンヘンジなんて、あれはきっと超能力者が居ないと説明がつかないと思うのよね。だって、あんな巨大な石を置くことは出来ないから」

「それじゃあ、モアイ像もそうなるのか? あれは確かに疑問は残るかもしれないけれど……。人力で巨大な石を運ぶ方法なんて、幾らでも存在すると思うが?」


 まさか令和のこの時代に、超能力者の存在有無について論ずることが出てくるとは、流石に思いもしなかった。もう少し、ちゃんとした会話が成り立つものだと思っていたよ。


「……文芸部の活動は? いったい、どんな活動をしているのか教えてくれないか」


 深い溜息を吐いて、話を強制的に戻すこととした。

 このまま話し続けていても良いのだろうが、そうなっては本題がいつになっても始まらない。流石に放課後の時間全てを使って無駄話をし続けるのは、ちょいと精神安定上宜しくないからな。


「文芸部とは言っているけれど、わたししか居ないから活動内容は流動的でね。特に何も決まっていないんだよね」


 それはどうなんだよ……。

 というか、良くそんな部活動が継続を許されたな?


「えへへー?」

「褒めていないから、安心しろ」


 というか、そのフレーズで褒められていると思っているなら、流石におかしいぞ。もう少しきちんと振る舞っておくべきだと思うけれど、そんなことは考えないのだろうな。

 もしかして、部活動とは言っているけれど、ただの居場所として残しているだけ……なんてことはないだろうな。

 幾らこの学校の校風が自由だからって、その度合いが大きすぎる気がする。


「まあまあ、あんまりそんな風に言わなくても。だから、簡単に言うけれど、この部活動には決められた活動が存在しないんだって。まあ、それが良いところなのかもしれないけれど」


 何処がだ。

 どう考えたって自己中心的な考えのもと、継続している活動じゃないか。

 それこそ、いつ終わってもおかしくないような、木っ端な存在だ。


「文芸部の活動報告を見たいのなら、本棚の端にあるキングファイルを見ると良いよ。一応色んな活動をしたら、記録を纏めないといけないからね。面倒臭いけれど、部活動を継続するためには致し方ないところもあるかな。もし新しい部員が増えたなら、その辺りはお願いすることにしようかなあ……」


 おい、今聞き捨てならないことを言っていたような気がするぞ。

 雑務をしたくないから、別の人間に押しつける? そんなことが許されると思っているのか——そういう横暴さがあるから、他の部活動でやっていけないのではないだろうか。もしくは、それを理解している上で、ここに居るのかもしれないけれど。


「文芸部の活動報告……、まあ、気にならない訳ではないし。見ても良いのか?」

「どうぞ」


 短く返事を得たので、ぼくは活動報告の収録されているキングファイルを手に取った。

 そこには様々な内容が書かれていた。きちんと綺麗に分類されているのは少々驚いた。さっきまでの彼女の会話の感じだと、そんなものの意識すらないように思えたからだ。

 ゴミ拾いから池の金魚の餌やり、図書館の蔵書の整理やプール掃除の手伝い——見れば見る程、雑用しかしていないのが良く分かる。これで良く部活動として存続出来るな。もしかして、何かしらの根回しをするためだけに、これをしているんじゃないだろうな……。

 さて、そこまで見終えたところで、見出しに気になる文字が現れた。


「……不思議な事件?」

「そう。この学校にはね、まるで超能力者が居るかのような、そんな変わった事件が数多く存在するのよ。知っていたかしら?」


 いや、全く。

 そんなことを、入学前に調べられる訳がないし。


「そんな多く事件が発生するのか? というか、それなら物騒だし、ちょっとは先生も考えるんじゃないか?」

「どうやって?」

「うん?」

「現代の科学では解明出来ない事件が起きているのに、どうやって策を講じるというのかしら? それこそ、放っておくしかアイディアがないように思えるけれど」


 そうだろうか。

 それこそ、臭いものに蓋をするではないけれど——学校そのものを閉鎖することも一つのアイディアではないだろうか。

 まあ、有栖川学園というのはネームバリューがとんでもないし、もしかしたらイメージを落としたくないから、箝口令でも敷いているのかもしれないけれどね。

 それはそれで、判明した後のイメージダウンは避けられない気がする。

 判断したのは誰だろうか?


「だから、わたしは超能力者でも魔法使いでも良いから……、事件を追っていくことでそれを見つけ出そうと思っている訳です。分かりましたか?」


 はいはい、それは良く分かりましたよ。

 あなたがとても常識がない人間であるということは。


「……馬鹿にしていますよね、さっきから。全く、最近はリアリティばかりを追求して困ったものです。少しはファンタジーに思いをはせても良いではありませんか。超能力者も魔法使いも絶対に居ます。それは間違いありません」

「いや、そんなことを言われても……」


 確かに魔法という概念は、昔はあったらしい。けれども魔女狩りがあったことから分かるけれど、異端扱いされていたのは間違いない。錬金術だってそうだよな、ありとあらゆる物を金に変える技術など、普通に考えて有り得ない。

 理解を得られない概念は、排除されても致し方ない。

 人々に理解され、受け入れられたのは、科学技術なのだから。

 扉がノックされ、ガラガラと音を立てて開いたのは——ぼくがモノローグで締めくくった、そのタイミングだった。

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