不思議23 解明と布石

「潤君、ちゃんと歩いてください」


「歩いてるって。元気が無いのは思愛莉が手を繋いでくれないからだよ」


「あの子に甘え過ぎなんですよ」


 体育祭が終わって少し経って、思愛莉から連絡がきた『図書室に行かなくていいんですか?』と。


 すっかり忘れていたけど、図書室に居た眼鏡女子に『体育祭の神隠し』が解明できたらまた来いと言われていた。


 どうやらシャーリーは行きたくないようだったので、俺がさっき無理やり眼鏡を掛けさせた。


「シャーリーってまだ思愛莉には気づいてないの?」


「そうですね。まぁ私が出てきてる時は寝てる感じなので気づきようがないんですけど」


「思愛莉は分かるんだよね」


「私はなんとなく分かりますね。ベースが私だからなんでしょうか?」


 シャーリーと思愛莉の二重人格と言えるこの状況は結局よく分かっていない。


 誘拐のショックでシャーリーが生まれたのは分かるけど、思愛莉には記憶があってシャーリーにはないのも何故なのか。


 他に二重人格の知り合いなんていないからなにが普通なのかも分からないし。


「同居できないのかね」


「それが必ずしもいいこととは限らないですよ」


「それもそっか。でもシャーリーなら『あなが私を作ったせいでこんなに辛いんだよ』とか言わないだろうけど」


「そこって声を似せるとこじゃないんですか?」


「は? 俺にそんな可愛い声出せる訳ないだろ」


 俺がそう言うと思愛莉が小さい声で「可愛い言うなし」とタメ口で言ったのに萌えた。


「そろそろ敬語外さない?」


「嫌です。潤君を喜ばせるだけなので」


「俺に幸せをちょうだい」


「……ずるい言い方です」


 意図してなかったけど、思愛莉とシャーリーは俺から幸せ(両親)を奪ったことを未だに気にしている。


 まぁでもそれで思愛莉がタメ口で話してくれるのなら行けるとこまで傷口を抉るけど。


「あぁ、幸せが欲しい。思愛莉がタメ口で話してくれたら幸せなんだけどなぁ」


「……潤君なんか嫌い」


「可愛い」


「反応がおかしいんですよ」


「次敬語使ったら図書室まで手を繋いで貰うから」


「嫌です。……今のは無ぁって」


 俺は無言で思愛莉の手を握った。


「次敬語使ったら何してもらおっかなー」


「潤君のバカ」


 顔を赤くしてはいるけど、どこか嬉しそうにしてるのでそのまま手を繋いで図書室に向かう。




「着いたんですから離してください」


「別に着くまでとは言ってないよ? 図書室までって言っただけだから、帰るまでだから」


「屁理屈ですよ」


「じゃあ今も敬語使ってるから延長ってことで」


 そこで話を終わりにして俺は思愛莉の手を引いて図書室に入った。


「だからここはカップルのデートスポットじゃないって言ってるよね」


「安心していい。まだ付き合ってないから」


「そ、ならいいや」


「良くないと思いますけど」


 どうやら今日もあの眼鏡女子(年上)が当番のようだ。


「どうせ本を読みに来た訳じゃないんでしょ。要件は?」


「お前が来いって言ったんだろ」


「そういえば体育祭終わってたか」


「サボったのか?」


「失礼な。女の子の日だったからここで読書をしてただけだよ」


「それ言えば体育サボれると思ってるだろ」


「ノーコメント」


 女の子の日と言われたらしょうがないと思うけど、確認のしようがないからこいつみたいにサボりの口実に使う奴もいるのではないのかと思ってしまう。


「普通はそう思われたくないから極力サボらないものだと思ったけど」


「なんで? ほんとにやばい時は休まないと」


「ほんとにやばい時を隠れ蓑にしてサボったのはどのぐらい?」


「女の子に何聞いてんの。セクハラで訴えるよ。ちなみにほんとにやばかったのは三回ぐらいで、体育休んだのは少なく見積もってその五倍ぐらいかな」


 セクハラなのは理解していたけど、何故かこの眼鏡女子には気にせず聞けてしまう。


「そろそろ視線が痛くなってきたんじゃないか?」


「とても。話を変えよう」


 さっきから思愛莉がゴミを見るような視線を俺に向けていて、泣きそうである。


 自業自得なのは分かっているけど。


「それでなんで俺達を呼んだ?」


「予想を聞こうか」


「まぁ十中八九『裏生徒会』のことだろ?」


「あなたが答えるんだ」


「思愛莉は今怒ってるから。それに分かってたろ?」


 思愛莉の視線は変わらないけど、相手はしてくれるようで頷いてくれた。


「ちなみにどこまで分かってる?」


「『裏生徒会』がとかかな」


「じゃあほとんど分かってるのか。解かせるの?」


「そうするかな。思愛莉、お詫びなにか考えといて。それと変われる? 嫌なら今度また来るからいいんだけど」


「私よりあの子がいいんだ」


「もう一回」


「知らない! 今度一緒にお出かけして。それで許してあげる」


 思愛莉はそう言って眼鏡を外した。


「可愛くない?」


「女の私でも少しドキッとした」


 いつも敬語の思愛莉が使うタメ口にギャップ萌えをした。


(これはシャーリーにも期待してしまうな)


 そんなことを考えていたらシャーリーが俺の腕にしがみついていた。


「どしたの?」


「威嚇してます」


 シャーリーが眼鏡女子をむぅ顔で睨んでいる。


 正直可愛すぎて眼鏡女子も戸惑っている。


「尊いってこういうのを言うのかな。ミステリー一筋の私がラブコメに手を出しそうだよ」


 そう言って眼鏡女子が一冊の本を手に取った。


「漫画だけど読んでみようかな」


「漫画とか置いてるんだ」


「あるよ。これは最近有名な漫画だよ。知ってる?」


 題名を読んだけど知らないものだった。


 俺はゲームはかじる程度にやるけど、漫画なんかは一切読まない。


 それなのにその漫画から目が離れない。


「私に見惚れてる?」


「残念、本の作者を見てた」


「珍しい名前だよねって」


 確かに珍しい。


 だけど俺は珍しいから見てたんじゃない。


 むしろ既知だったから見ていた。


「神絵師ってどこかで聞いたような」


「長年の悩みが解消されたよ。帰りに本屋寄らないと」


「借りてけばいいじゃん」


「新品をずっと家に置いときたいんだよ」


 そうすれば姉さんの可愛い一面がまた見れるかもしれない。


「それよりシャーリー、『裏生徒会』の解明をしよう」


「いきなりですね」


「シャーリーなら分かると思って」


「『裏生徒会』ってお母さんの学生時代にもあったみたいなんですよね」


「じゃあ分かったね」


 俺がそう言うとシャーリーが黙ってしまった。


「ヒントは七不思議かな」


「遠いようで答えみたいなヒントだね」


「もしかして分かってないの私だけですか?」


「そうだよ。次のヒントは六番目かな」


「ヒントが早いです」


 今までの経験上、ヒントを渋っても長引くだけでいいことがない。


 シャーリーの苦悶する姿は可愛いから見てたいけど、途中から可哀想になってくる。


 だから早めに終わらせることにした。


「『裏生徒会』って存在してるんですか?」


「いい質問。多分今は無いんじゃないかな」


「そうだね。少なくとも無い」


 眼鏡女子から確証も得られたので、これでヒントは終わりだ。


 今のシャーリーならこれで解明までいけるはずだ。


「分からない?」


「……はい」


「おまけヒント。生徒会って言葉に意味は特にないよ」


「あるし! 生徒会って付いてたらなんか権力あるみたいでいいじゃん」


 眼鏡女子が初めて大きな声を出して力説するけど、それはつまり意味がないということだ。


「もしかして、七不思議を考えたのが『裏生徒会』ですか?」


「正解。生徒会がずっと引っかかってたの?」


「はい。生徒会となにか関係があるのかをずっと考えてました」


 シャーリーは言葉をそのまま受け取るから意味の無い言葉を言われても答えに辿り着けない。


「名前変えないの?」


「それは代々受け継がれてるものだから変えられないね」


「ところで眼鏡先輩はなんでそんなに七不思議に詳しいんですか?」


「だって今の七不思議考えたの私だから」


 それを聞いたシャーリーが固まってしまった。


「ぽかん顔も可愛い」


「そんなのはいいんです! あなたが七不思議を?」


「七不思議を全部解明した人達が新しいの作る決まりだからね」


(人達ね)


 なんかめんどくさい後付け設定を聞かされて、七不思議を考える役はあの二人に任せたくなった。


「『裏生徒会』って言うのは詳しく言うと、前七不思議解明者ってことで、俺達みたいに六個の七不思議を解明した人に七個目を教える役だろ?」


「そう、今代の探偵は助手の方が優秀なんだね」


「解いたのはシャーリーだから。それであの二人は最後のとこ?」


「そうだね。最後の不思議に挑戦中……と言っても七個目は謎にもなってないんだけどね」


 七個目はふわっとなら分かる。


 今までの六個は布石のようなもの。


 きっかけを与えて仲を紡がせる。


 そして最後は。


「最後の不思議は『七不思議のジンクス』だよ。要するに素直になれってことね」


「ジンクスってあの……あれですよね」


「説明が難しいのは分かるけど、シャーリーが言うと分かってないみたいに聞こえるよね」


「分かりますよ! 文化祭の後夜祭で一緒にフォークダンスを踊ると恋人になれるみたいなやつですよね」


 別に疑った訳では無いのだけど、そこまで分かってるならもう助手の仕事は無さそうだ。


「でも素直ってどういうことでしょうか」


「シャーリーがシャーリーで俺は嬉しいよ」


「ちなみに前に来た探偵見習いも同じ反応してた」


(司波に同情だけしておく)


「まぁ追々でいいか。帰ろ」


「はい」


 俺とシャーリーは眼鏡女子に挨拶をしてから図書室を出た。


 七不思議最後にして最大の難関になりそうだけど、きっと解明させてみせる。

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