思春

裏蜜ラミ

思春

 僕は空木うつろぎ。絶賛思春期男子として、希死念慮の隣に常に身を置いているごく一般的な十六歳である。

 お風呂に入っていてもトイレに入っていても食事をしていてもベッドに寝ていても学校で授業を受けていても友達と話していても何もしていなくても、いつだってRIPと書かれた墓と十三番目のタロットカードの幻覚が、脳裏でワルツを踊っているのだ。

 なぜそんなことになっているのかと言えば、僕の見解ではずばり、人生を歩むことへの飽きである。

 ヒュプノスが反転し、タナトスが僕との一期一会を大事にするべく付き纏い行為をしているわけだ。

 更に根掘り葉掘り深掘りしよう。それはなぜか。

 真実は一つであり、僕が無能だということのみ。

 やることなすこと無意味どころか結果も生まないとくれば、そりゃあ誰だって匙を遠投するだろう。

 僕も、杓子と定規を一緒くたにしてへし折った。そんなことをしたくなるぐらいの、無気力になる。

 学校でだって、教師陣からの覚えはもう、ことごとく悪い。本当に僕だけが悪いのかと疑うほどだ。

 学力は上の下である。ただし、成績は最底辺だ。僕より頭が悪い生徒も、成績では上をいっている。

 これは僕が無能であるからこう結果が出るのだ。

 実に仕方がないことだろう。どうにかしようなどという気概も気力も能も無い。無能であるがゆえ。

 友達はいる。同じクラスに一人だけ。いつでも、彼女が欲しいという話しかしないような奴だけど。

 どうしてか、僕にはその手の欲がない。そのため欲のそっくり反対にある妬み嫉みとも無縁である。

 恋人と手を繋ぎ合わせて、楽しそうに笑いながら歩く人の姿を見たところで、リア充めとかいう嫉妬臭い罵倒の言葉は生まれず、おや人間と思うだけ。

 ただ、人を爆殺したいという点には共感できる。

 爆発は芸術だ。今は亡き他人が教えてくれた。

 そもそも、なぜ人間は子を産むのだろう。性欲は三大欲求の一つではあるが、避妊具というものも、この世にはしっかりと存在しているというのに。

 ごみごみの間に産まれた子供が可哀想だ。一応言っておくが、僕は鏡に映る虚像を慰める趣味はない。

 そういえば、親ガチャという言葉に対して、子ガチャという言葉で返すような人間がいるらしいが。

 しかし、それは普通ありえないだろう。蛙の子が産まれたのは親が蛙だからだ。鷹から蛙が産まれることはないし、鳶から鷹が産まれることもない。

 蛙は何があっても蛙で、決して鳶や鷹ではない。

 少なくとも、鷹と蛙の交尾は成功しないだろう。

 蛙は自重して、井の中で干からびて死ぬべきだ。

 ところで、交尾で思い出したのだが、そういえば僕は、前にカラスの交尾を目撃したことがある。

 感想といえば、人のそれよりはマシだ、とだけ。

 ちなみに付け加えておくと、それは死姦だった。

 やはり、人のそれよりは多少ばかりマシだ。

 ……うぅむ。さっきから僕は文句ばっかりだな。そうしたくなる世界が悪いか。僕も悪いが。

 というか、僕は酷いのだ。目も当てられない。

 そういう類の人間であるということなのだし。

 一貫しない人格、存在しない人間性。矛盾を孕めばそれは限りなく人間に近いという。

 矛盾。人にしかないものはそれであろう。

 しかし、こうやって世の中の色んなものにケチをつけていると、やはり僕はひねくれた厭世的な人間なのだろうかと考えてしまう。事実らしさもある。

 厭世感と希死念慮はほとんど同じものであるし。

 ふうむ、では僕は、世を嫌っているのか。

 そう言われると、それは違うような気もする。

 よく分からないけれど、僕が嫌っているのは人生とかこの世の全てとか、そんなものではないのだ。

 要するに僕は、何も感じていないのであろう。

 好きだとか嫌いだとか、その領域ですらない。

 何となく生きるのに、飽き飽きしただけなのだ。

 意味を見出だせないことを続けられるほど、僕は忍耐強くないし、頭の悪い阿呆でもないのだ。

 中途半端な無能としては死を思うばかりである。

 さて、今度の春の暖かい朝にでも、脳裏の彼らに挨拶をして、皆にもまた、お別れの挨拶をせねば。

 春は昨日から始まって、今朝は暖かかったから、それじゃあ僕は、僕を今日で終わらせるとするか。

 最後に、僕の座右の銘を教えてあげよう。


 死もまた、生の一つの在り方である。


 僕が言うのだから、間違いない。

 皆様方は、今後も生地獄をお楽しみください。

 それでは明日に、さようなら。

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思春 裏蜜ラミ @kyukyu99

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