第9話 スラムでチンピラに囲まれるも……

 メンディーニ領地内にあるこのハンメルの街は、鍛冶技術が発達している。その技術を活かして、鉄道による交易も盛んだ。


 しかし、オレたちがサーベルタイガーを撃退したナマゾ地帯は、さすがのドワーフたちでも持て余す土地だったらしい。


 ギルドで報告を終えた後は、念願の新装備だ。


「よお。鹿の人」


 鍛冶屋のジャコモが、ナタリーナに声をかけてくる。通い詰めていたので、すっかり名前を覚えてしまった。この


 そういえば、ナタリーナは認識阻害フードを被っているんだったっけ。


「ペペル、お前には【鹿の人】が、どう見える?」


「鹿の人でしょ? 有名ですよ」


 なるほど。彼女にはナタリーナの姿がマッチョおじさんに見えるらしい。


「今日はキョウマと、獣人族を連れているのか?」


 枝の人ってのは、オレのことだ。


「うん。新素材を持ってきた」


「おお、いい素材じゃねえか!」


 ジャコモが【黒い牙】を手に、うなる。


「こいつは有機物なのに、金属質なんだ。これで、すげえ武器が作れる。メンディーニ王国の領土じゃあ、めったにお目にかかれないぜ」


「キョウマが取ってきた」


「すげえな。そちらのハーミットもすげえが、鹿の人の日頃の行いがいいからだろうな」


 オレも、そう思う。


「数日待ってくれ。いい武器を作るよ」


 前金をもらって、ジャコモが素材を受け取る。


「ナタは、そのまま使いな。新装備ができたら、そいつを潰して新武器の素材にするから」


「よろしく。あと、頼んでおいた例のものは?」


「できてるよ。外へ出な」


 オレたちは、鍛冶屋の外にある庭まで案内された。


 雨よけの屋根の下に、大量の金属が。


「レールだ!」


 鉄道に使う線路が、ズラッと並んでいた。

 他には、トロッコである。魔法で動き、線路での移動が可能だ。


「しかし、これを全部運ぶのか」


 一人二人でやったら、大変だ。


「心配いりません。弟妹たちも元気になったので、手伝わせます」


 ペペルが、手伝いを買って出た。


「ありがたい。な?」


「うん。ありがと」


 ナタリーナは、片手で線路を担いでいる。


 しかし、オレはペペルの手を借りてやっとだ。


 ハンメルの街外れには、放棄された廃線がある。そこへ、第一号の線路を引いた。


「あ、ちょっとまってくれ。商業ギルドとか役所には、ちゃんと届けているのか?」


「話はつけてあるけど?」


「一応、確認させてくれ」


 口約束の可能性もある。オレたちはひとまず、商業ギルドなどに話をしに向かった。


「この鹿の人が線路を引きたいって言っているのだが、許可はいただけるか?」


「構いません。破棄されたナマゾ行き線路といえど、復活すればまた需要が生まれましょう」


 隣でナタリーナが、ドヤ顔をしている。「フフーン」と、クソムカつく顔で。


「ですが……」


 ギルド職員が、口ごもる。


「鹿の方にも申し上げましたが、ちゃんと機能するかどうかは、保証しかねます」


「ナマゾって、そんなに危ない地域なのか?」


「いたるところにダンジョンがあって、強いモンスターは出る、気候の変化が激しい。かつての戦場跡なので、ゾンビも湧く。あまりオススメはできません」


 他の国も、ナマゾエリアの開拓をあきらめたらしい。それだけ、大変な地帯だったのか。


「サーベルタイガーでさえ、ナマゾ地帯では小物に過ぎません」


『縄張りを追われて、あの廃駅にたむろしていた』、という報告があるらしい。


 サーベルタイガーがザコかよ。


「それだけあそこの開拓は大変です。しかし土地は肥沃なので、農地としては優秀なんですよね」


 人が住まなくなっただけに、土地が活気づいたのか。ちょっと皮肉めいているな。


「鹿の方なら、信頼できます。なにか助けが必要でしたら、いつでも申してください」


「ありがとう。助かる」


 オレたちは、スラムへと戻っていく。


「ペペルたち家族には、オレたちの領地に住んでもらう。トロッコが通れるようになれば、街への行き来も楽になるはずだ」


「ありがとうございます。助かります」


「ただ、それまではスラムから通いになるぞ」


「構いませ……ん?」


 スラムに向かう途中、ガラの悪い男女に囲まれてしまう。


 これは、チンピラ撃退イベントか?


「鹿の人だな?」


「うむ」


「……ファンです! 握手してください!」


 ファンを名乗るチンピラが、ナタリーナに手を差し伸べてきた。

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